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小松田秀作



小松田秀作夢『いつものこと』


 戸を開いた瞬間、すべてを察した。

 事務員室の資料棚が、それはもうここだけ局地的な地震があったのかと思うほど見事にぶちまけられていた。私が先週休憩時間を削ってまで綺麗に整理したすべてが、倒れた棚から流れ出して床に冊子の川を作っている。
「ああああ、折れてる! 大事なものなのに!」
 棚と床に挟まれてひしゃげている備品在庫の記録用紙とか日誌の束とかを、慌てて手を伸ばしてかき集める。これもそれもあれも! 全部一冊きりしかないのに!
 吉野先生が怒りを通り越して呆れた顔をしていたのを思い出す。「いつものことですみませんが、事務員室を片付けておいてください」と私に頼んだ時は、むしろ呆れと言うより寂しそうだった。
 だけど私は、この惨状を見て呆れるとか寂しいとかは思わない。ただ純粋にそう、腹が立つ。

「小松田さん!」
「は、はい!」

 叫んだ瞬間、びくっ、と私の後ろにいた小松田さんが悲鳴のような声を上げる。
 振り向くと、私よりも身長だって高い、立派な大人のはずの小松田さんは、子供みたいにすぐに私の目の前に正座した。
 私は立ち上がり、小松田さんの前に同じように正座する。対面する形で、軽く睨む。
「なにがあったのか一から説明してください」
「あ、あのね、僕がここの掃除をしていたら、いきなり窓から野良猫が入ってきてね」
「大体分かりました」
「え、もう? すごいなぁ」
「いつものことですから」
 冷たく言うと、小松田さんはしゅんと肩を落とす。
「ごめんね……その、……ごめんなさい」
 まるで幼子みたいな拙い謝罪に、私の怒りがするする小さくなっていく。いつもだ。すごく腹が立っていても、小松田さんが謝ると、怒る気が失せてしまう。
「……もういいです。片付けますから、手伝ってください」
「え、僕がやるよ? 僕のせいなんだし」
「私が片付けますから、小松田さんは手伝ってください」
 もう一度繰り返すと、「……はい」と小松田さんはこくこくと頷いた。

 私は、整理も掃除も比較的好きだ。仕事の成果が一目で分かるとすっきりする。けれど、一度綺麗にしたものを不可抗力とはいえこれほど見事に台無しにされると、さすがにやる気が湧いてこない。
「えっと……これ、どこだっけ」
「あ、そこじゃないです、あっちの棚です! ちゃんと日付順に並べてくださいね!」
「うん、僕に任せて──わっ!」
「あああああ、整理し終わったばかりの外出届の記録が!」
 二つ進めば一つ戻る、くらいの早さで、私と小松田さんは事務員室を片付けていく。いつものこと。

「……本当に、ごめんね」

 小松田さんがたくさん謝るのも、いつものことで。

「ありがとう。僕ね、ちゃんがいてくれてよかったよ」

 笑顔で私に礼を言うのも、いつものことで。
 そのすごく邪気のない微笑みに、私が一瞬心を奪われてしまうのも、いつものことで。
 そして、

「そ、……そんなことはいいから早く手を動かしてください! 鐘が鳴るまでに終わらなかったら、晩ご飯食べられませんからね!」
「うん、頑張るね!」



 私が慌てて、照れ隠しに大声で叫ぶことも、いつものことだ。