富松作兵衛夢
『いつの世までも末永く』一話





 用具委員会は忙しい。
 それは、俺が委員会に入ったときからずっと変わらないことだ。ものを作ったり直したりする細かな作業は忍術にも通じるし、やりがいもある。けれどその利点と同じくらい、用具委員は貧乏くじだと思うときもある。なにしろ用具委員の仕事は、備品の手入れや在庫整理だけではなく、破損した箇所の修理が主だからだ。
 それも老朽化が原因なら、別に構わない。天災や事故でも、まぁ我慢しよう。だけどたまに我慢出来なくなるのは、生徒(や小松田さん)が、くっだらねぇ理由や完璧な不注意で学園内をぶっ壊したとき、だ。

「よーし、今日も気張って委員会するぞー! 喜三太、今日の活動予定はなんだ!」
「はーい、富松先輩! えっと、今日の備品確認は衣料品倉庫、修理箇所は脆くなってきた手裏剣投げ練習場の壁の補修と、一昨日に田村先輩がユリコちゃんでぶっ壊した六年長屋の厠の修理です! 時間が余ったら僕のナメさん小屋を作ってください!」
「おう、任せとけ! 続いてしんべヱ、今日の追加修理箇所を頼む!」
「はーい! 今日の追加修理箇所は、小松田さんが踏み抜いた職員室前の床板と、図書室でうるさかった生徒に能勢先輩がキレて壊した本棚二つ、神崎先輩が女子寮に迷い込んで総攻撃かけられてぶっ飛んだお風呂の屋根、それと次屋先輩が女子寮に迷い込んで総攻撃かけられてぶっ飛んだお風呂場用の井戸、最後に三反田先輩が不運で転んで壊しちゃった学園長先生の盆栽の飾り棚です!」
「よーし! 左門と三之助には後で俺から死ぬほど説教しておくから、何回同じこと繰り返すんだあいつらはいい加減にしろ用具委員に喧嘩売ってんのかいっそ買うぞコラァ、とは言わねぇでやってくれ! 喜三太悪ぃ、ナメさん小屋はまた今度な! さ、なにからやるか采配すっからみんな並べーっ。平太、お前は用具倉庫で先に修理用具を出しててくれ!」
「はいー……っ」

 と、こんな感じが毎日続くと、さすがに苛々することもある。……半分は俺の学年が原因だから、申し訳なくなってくるというのもあるけどな。
 とにかく、食満先輩が卒業してから、用具委員は顧問の吉野先生以外では、実質俺が取り仕切る立場にある。今になって思うと、食満先輩はほんとにすごかったんだなと尊敬するばかりだ。俺に同じように出来るとは思えねぇけど、愚痴ってても仕方ねぇし、とりあえず出来ることからやんねぇとな。

「はいはーい、一年生から富松先輩に聞きに言ってねー。大丈夫だよ、頑張ったらすぐ終わるからね」
「でも今日も大変そうだねえ。晩ご飯までに終わるといいけど……」
「無理なら、晩ご飯食べた後に僕達がまた集まればいいよ。ナメさん達の月光浴もできるしねー」
「あ、そうだね! ご飯食べたら元気になるしね! みんな、頑張ろうねーっ!」

 喜三太としんべヱも朗らかに笑い合い、他の委員を励ましている。新しく入ってきた委員達も、大変だろうに泣き言や恨み言をほとんど言わないいい子達だ。よし、やっぱり俺が頑張らないとな。気合いを入れて、「まず在庫整理からな!」と委員達に指示を出し始めた。

「富松先輩、これどっちからやったほうがいいですか? 一緒にしたほうが早いと思うんですけど」
「そうだな、壁の修補は時間がかかるから、まず漆喰をつくるとこから始めるか。んで、漆喰塗ってから図書室の本棚の補修。その後乾いた壁の仕上げな。分かんねえことがあったら、いつでも言ってくれ」
「はーい、分かりました! じゃあ、まずは用具倉庫に道具取りに行かないとねー」
「せんぱいせんぱい、ぼくは?」
「あぁ、お前は平太と一緒にまず備品の確認をしてきてくれ。で、手が空いたら、大変そうなとこから回って手伝うんだ。平太にそう言えば、あとは教えてくれるはずだからな。平太の言うことをよく聞くんだぞ」
「はーい、わかりましたー! 平太せんぱーい!」
「……よし、これでどうにかなるか……?」

 なんとか全員分の采配を終えて、俺はふう、と一息つく。とりあえず作業が順調に行けば、委員会活動時間内に大方仕事を終えられるだろう。まあそれが無理でも、喜三太としんべヱが言っていた通り、食後に俺が続きをやればいいだけのことだしな。
 あんまり頭を使うのは得意じゃねぇから、みんなに仕事を割り振るこのときがいつも一番緊張する。だけどそれさえ終われば、後は身体を動かすだけだ。さー、俺も道具を取ってきて仕事を始めよう、と用具倉庫に向かおうとした、そのときだった。

「…………うっ」

 じーっと自分に向けられた視線に気づいて、思わず身体の動きを止めた。辺りは、重い道具箱や瓦をひょいひょい運んでいるしんべヱや、喜三太に仕事を教わっている低学年でわいわい騒がしいけれど、視線はそんな委員達からのものじゃない。案の定、少し離れた木の後ろからこっそりとこちらを窺っている人影を見付けて、頬をひきつらせた。
 人影は俺に見つかったのに気づき、すぐに木から離れてこちらに向かってきた。目の前まで近付いてきて、深々と俺に頭を下げる。

「お仕事中失礼致します、用具委員会一同様」
「……先輩……」

 頭を下げたままのそのひとは、六年生の女子生徒、先輩だ。ああ、嫌な予感が止まらねぇ。なになにどうしたのー、と周りの委員達が興味深そうに騒いでいるのに、仕事に戻りなさいと目で示して、先輩に視線を戻した。
 今はものすごーく低頭した様子だけど、普段のこのひとはちっともこんな感じじゃない。どっちかと言うと、掴み所のないぼんやりとしたひとだ。
 で、このひとが俺に対してそんな言葉遣いをするとき、その理由はただ一つ。

「こんにちは、富松作兵衛様。本日は大変お日柄もよく、雨降って地固まって、人生には大切な三つの袋がうんたらかんたら」
「そんなんどうでもいいから、早く本題を言ってください」

 俺から目を逸らして意味の分からないことを呟く先輩を急かすと、先輩は気合いを入れるように顔を上げ、俺と視線を合わせた。そして、一言。

「富松ちゃんごめんなさい、女子寮の戸板を三枚くらいぶっ壊しました」
「きゃーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
「いやーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
「女子寮のお仕事増えたーーーーーーーーー!」

 悲鳴を上げたのは、薄々勘づいていた俺じゃない。周りの下級生達だ。でも俺も同じ気持ちでいっぱいだ。せっかく仕事の割り振りが終わったのに。しかも女子寮の戸板というと勿論生活場所の修理だから、優先順位もかなり高い。

「ええ、だろうと思いましたよ! 今月で一体何度目だと思ってるんですかっ」
「ごめんなさい、忙しいのにほんとごめんなさい。土下座しますから修理してください、お願いします。あ、頭踏んでもいいです。でも出来れば優しく踏んでください」
「こらこらこらこらーっ」

 本気で地面の上に膝を折りそうになった先輩を、慌ててその腕を引っ張って止めた。このひとを放置しておくと、ほんとに土下座くらい簡単にする。後輩達にそんなもん見せたくない。

「ああもう、やめてくださいよ。先輩に土下座してもらったって直らないでしょうが。……あー、しょうがないですね。場所は女子寮のどこですか」
「はい、作兵衛様。女子寮南側の奥から順に綺麗に三枚分です。廊下でちょっと派手に組み手の練習してたら、勢いよく転がっちゃってどかーんどかーんどかーんと、連鎖的大不運が」
「まあ、どうせ女子寮行かなきゃいけませんでしたからね……。すぐ行きますから、俺の立ち入り許可をもらってきてくださいよ」
「ははー!」

 びしっと惚れ惚れするような綺麗なお辞儀をして、先輩は女子寮に向かって行った。やれやれとため息を吐いてから、俺は周りに目を向ける。うわぁ……という顔で俺を見つめている委員達を。
 先輩に言った通り、どうせ女子寮には風呂場の修理に行かなきゃならなかったんだけど、こうなると今日はずっとそこにかかりきりになるだろう。

「そーいうことらしいから、俺はひとまず女子寮に行ってくる。みんな、喜三太やしんべヱや平太の言うこと聞いて、頑張るんだぞ」
「あー、お仕事増えちゃいましたねぇ」
「女子寮におひとりで大丈夫ですか……?」
「富松先輩、なにかあったらくの一教室の子に伝言を頼んでいいですか?」
「おう、頼む。喜三太達、俺が女子寮から戻ってくるまでよろしくな。判断が難しそうだったら俺に聞きにくるか、吉野先生にな」

 突発に修理箇所が増えるのは、日常茶飯事だ。すぐ傍にいる不安そうな顔の一年生の頭をぽんぽん叩いてから、俺は急いで女子寮の補修用の道具を集め始める。戸板はともかく、屋根の修理は瓦がいるからなぁ……。

先輩、お怪我しなかったかな……」
「保健委員みたいな不運さん?」
「どかーんどかーんどかーん……連鎖的大不運……」
「富松先輩可哀想……」
「はーいみんな、お仕事しようねー。富松先輩に負けちゃ駄目だぞぉー」
「はーいっ」
「はーいっ」
「じゃあ、俺行ってくるからな。みんな、頼む!」
「富松先輩行ってらっしゃーい!」
「お気をつけてー!」

 よし、と持てる限りの道具を担ぎ上げて、俺は先輩が走っていた方向、女子寮へと急いで駆けだした。




 女子寮での補修作業は、用具委員、特にその下級生達には評判が悪い。
 それは自分達が知らない場所で勝手が分からないから、ということもあるけれど、もっと簡単に言えば、『女子超怖い』の一言で終わる。
 なんせ忍術学園の男子生徒は一人残らず、一年のときにくの一教室の手厚い歓迎会を受けている。俺のときも大概だったけど、それを色濃く覚えている低学年にとって、くの一教室の敷地内はただのお化け屋敷だろう。
 だから、ということでもないけれど、女子寮での補修作業は自然と俺の役割のようになっている。嫌がってる委員を無理に連れてくるのも可哀想だしな。

「あ、富松ちゃん。ごめんね、待たせちゃったかな」

 女子寮の入り口で待っていると、慌てた様子で先輩が走ってきた。手には、俺の立ち入り許可証だろう紙片を握ってる。

「いえ、今来たところですから待ってないです。あ、許可証もらいます」
「うん。これね」

 受け取った許可証を慎重に懐に仕舞ってから(これを持たずに女子寮をうろつくのは、地雷原を歩くのと変わらない)、ふと今の会話のやりとりがなんだか逢い引きみたいに思えて恥ずかしくなる。そんな空気欠片もないっての。
 さて行くか、と地面の上に置いていた道具類を担ぎ上げると、先輩も自分の近くにあったススキの束を持ち上げてくれた。そして次の瞬間、ぼすん、とそれが地面に落ちる。

「な、なにこれ、無茶苦茶重いんだけど。茅葺き用のススキじゃないの?」
「あー、中に瓦が入ってんですよ。そのままだとすぐ割れちまいますからね」
「おおー用具委員の知恵だねー」
「まあ、伊達に学園中の屋根を修理してないですよ……」

 先輩に軽めの道具箱を持ってもらって、瓦入りのススキは俺が持った。用具委員会に入ってると、体力も筋力も人並み以上にはつく。まあ、これはいいところの一つだな。

「ちょっと待ってね、罠がないか確認するから……ん、大丈夫」

 先輩はきょろきょろと辺りを確認し、そして女子寮の入り口の戸を開けて、少し芝居かがった仕草で俺を中へと誘う。

「ささ、用具委員お一人様ご案内ー。女の園にようこそー」
「ほんとはあんまり来たくないんすけどね……」
「そんなこと言わずに、定期的に点検とかに来てくれてもいいんだよ」
「勘弁してください……」

 女子寮の中に入る瞬間(入った後もだけど)、いつも少し緊張する。男子寮とあまり変わらない造りでも、やっぱり滅多に入れない場所だし、なにより先輩が隣にいたとしても、どっかからか狙撃されんじゃねーかとか、いきなり宝禄火矢が飛んでくるじゃねーかとか余計なことを気にしてしまうからだ。さすがに今まで修理に来て、そんなことは一度もなかったけど。
 でも今も、あちこちから視線を感じる。

「あ、富松ちゃんは修理に来てるから、攻撃しないでね。許可証もちゃんと持ってるから」
「あら、そうなんですか。残念ですが我慢します。試し切りしたかったんですけど」
「分かりました、先輩! 罠仕掛けるのも我慢しますねっ!」
「おおーみんなえらいぞー」

 じーっとこっちを見てる下級生女子達に先輩が一言言うと、女子達は次々頷いてどこかに去っていく。それと同時に、こちらを窺っていたらしい遠くの気配もささっと消えた。ああ、こえー……。やっぱ女子ってこえー……。

「富松ちゃん、どこから修理する? お風呂場の屋根か、お風呂場の井戸か、それか戸板三枚連続ほんとすみません」
「あいつらが女子寮嫌がるのも分からんでもないっていうかすごく分かるっていうか俺も出来ればこのまま逃げた…………え、あ、修理ですか。えっと……風呂って今日はどうするんですか?」
「今日はもう使えないから、職員用のを使わせてもらうの。明日までに直らなくても、またお借りできると思うけど」
「じゃあ、戸板からですね。寝るとき寒いですし。壊したのって空き部屋のじゃないですよね?」
「うん、ありがとう」

 微笑んで頷いて、先輩は「こっちだよ」と修理箇所へと俺を案内する。
 先輩はもう素に戻っていて、さっき委員達の前で見せた低頭した様子は綺麗に消えていた。もういいか、と思ったんだろう。このひとは昔からこんな感じだ。
 先輩は、ちょっと変なひとだ。
 忍術学園はかなり変なひとばかりだから、むしろ普通のひとに近いと言えるのかもしれないけれど、先輩は『ちょっと変』という表現が一番正しいと思う。
 とにかくいつでもぼけーっとしていて、縁側でお茶でも飲んでそうな雰囲気なのに、それでいてどこか掴み所がない。友達はたくさんいるけど親友はいない、みたいな交友関係で、派閥的なものにも興味がなく、物事に我関せずで自己主張が弱い。かといって情が薄いひとでもないのだけど、とにかくあまり他人とつるみたがらない、けれど距離を取りすぎもしない、いつも曖昧なところにいるひとだ。
 その理由については今となっては大体分かるけれど、それはともかくとして、俺は昔からなにかと先輩と一緒にいることが多かった。艶っぽい意味じゃなくて、単に先輩がよく用具委員会に顔を出していたからだ。今みたいに。

「あ、あそこなの。奥から順に三枚、どかんどかんどかーん」
「あー、まあ、思ったよりましですかね。大破してねぇですし。部屋の生徒はどこにいるんですか? 誰もいないみたいですけど」
「うん。ここの学年の子、みんな今登山実習でね、夜にならないと帰ってこないの。……まあ、だから廊下ではしゃいで組み手とかしてたんだけど。誰もいないと気が大きくなるじゃない? 開放的になるのかな」
「ああ、たまにいますよね。部屋で一人だと全裸になりたがるやつとか」
「三之助? 左門? 富松ちゃん本人?」
「えーと、じゃあ、ちゃっちゃと始めますね」

 興味深そうな先輩の視線から逃げて、俺は担いでいた道具を下ろす。女子寮の奥、廊下の突き当たりには、外された戸が三枚、並べられている。先輩に言った通り、想像していたよりは大分ましな状態だった。
 三枚とも完全にぶっ飛んで欠片も残ってないのかと思っていたけど、一枚は中破、あとの二枚は端が欠けているくらいだ。ちょっと釘と糊を使えば、さほど時間もかからず補修できるだろう。
 と、ここまで考えたところで、糊を持ってくるのを忘れたことに気づいたけど、まあ一度外に出ればいいか。とりあえず直せるところから直しちまおう。
 まずは中破したのから直そうと腰を下ろして道具箱を開くと、少し距離を取って先輩もちょこんと廊下に正座する。目を向けると、なにか手伝おうか、という顔をするので、首を横に振った。

「これくれぇならすぐ終わりますし、先輩も部屋戻ってていいですよ」
「じゃあ、見学したい。邪魔かな?」
「や、別にそんなことねぇすけど」

 そこまで言われたら、別に断る理由もない。正直さっきの女子達の様子を見ていたら、近くにいてもらったほうが安心するのは確かだしな。
 とりあえず先輩なら、問答無用で俺を騙したり刺したり蹴ったり殴ったり池に突き落としたり毒盛ったり吊るしたりしないはずだ。……過去二回くらい、くの一教室の実習課題とかで裏切られたけど。

「あ、もう直してくれてんの?」
「よかったー、あの子達帰ってくるのに間に合わないかと思って、どきどきしてたのー」

 突然に声がして振り向くと、二人の女子生徒が俺と先輩に近付いてくる。顔くらいは知っている。先輩と同年の(つまり最上級生の)女子生徒達だ。どっちも今はにこにこしてるけど、いつもはちょっと、いやかなり怖い人達だ。男子生徒にとってだけど。
 その声から察するに、つまりこの人達も先輩と一緒に戸板を壊したのだろう。組み手ではしゃぎすぎて。

「わざわざありがと、富松。用具委員で忙しいのに悪いわね」
「い、いえいえ! とんでもねーです!」
「ごめんねぇ、まさかこの子ぶん投げたら戸板まで届くと思わなかったのよー。あんなに飛ばなくてもいいのに、ほんと空気読まない子だよね」
「投げたやつがなに言ってんのよ、受け身取ったのに戸板壊しちゃったのあんたのせいよ」

 先輩達は、お互いに軽口を叩き合っている。とりあえず投げられたほうの先輩は、かすり傷一つ負って
ないらしい。それはそれでやっぱりすげえよ、くの一怖い。

「お詫びに、今度用具委員にお菓子差し入れにいくよー。ビスコイトとボーロどっちがいいかな?」
「いえいえいえいえいえいえ、お構いなく! ほんとお気遣いなく! これ俺の仕事なんで!」
「あら、そう? 毒も下剤も入れないのに」

 くすくす、先輩達が楽しそうに笑ってる。完全に俺で遊んでる表情だ。こ、怖いよー。くの一怖いよー。

「二人とも、あんまり富松ちゃんをからかわないであげてよ。富松ちゃん被害妄想すごいんだから。この若さで禿げたら可哀想じゃない」
「あはは、ごめんね富松。ほんとに有り難く思ってんのよ? もごめんね、私らが壊したのに用具委員に言いに行ってくれて。当番があったからどうしても抜けられなくてさ」
「急いでたから助かったよ、。ありがとう!」
「いいの。バイトまで暇だったし、富松ちゃんで遊ぶの好きだからね」
「あはは、あんたもひとのこと言えないじゃん。じゃ、また今度なんかおごるよ! 富松、ほんとにありがとね。悪いけど私らまだ当番残ってるから、あとよろしく」
「富松君、気をつけて帰ってねー!」

 ぶんぶん嬉しそうに手を振って、先輩女子二人は去って行った。途端、緊張に固まっていた身体から力が抜ける。
 同年の女子や先輩はともかくとして、やっぱり年上のくの一はとびきり怖い。なんだか頭からバリバリ食われてしまうような気がするからだ。俺ももう五年だし、くの一だからってそこまで人外じゃないのは理解しているのに、逆らう気がまったく起きない。これたぶん、昔からの刷り込みってやつだよな。





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