田村三木ヱ門夢
三話『体調不良』おまけ





「すみません潮江先輩、遅れました!」

 勢いよく会計委員室の戸を開けると、そこには文次郎一人しかいなかった。
「……おう、戻ったか」
 帳簿計算をしていたらしい文次郎が、三木ヱ門に気づいて筆を置く。
「あの、左門達はどうしたんです?」
「どーしても計算が合わんと泣き言を漏らすから、校庭で匍匐前進させている」
「……ああ、そうですか……」
 下級生達が座っていたらしい文机の上には、幾度も幾度も計算し直したらしい、必死で綴った計算式が見える。一文でも合わなければ委員長の雷が落ちる会計委員だ、三木ヱ門も嫌と言うほど経験してきたので、下級生達に軽い同情はしても可哀相だとは思わなかった。会計委員だから仕方ない。
「遅くなってすみません、潮江先輩。これ帳簿です、どうぞ」
「ああ、そこらに置いとけ」
 三木ヱ門が差し出す帳簿を見もせずにそう言って、文次郎は再び帳簿計算に戻る。そのやけにあっさりした姿に、三木ヱ門は違和感を抱く。明らかに遅い戻りなのに、文次郎が全く怒る様子を見せないのは、なぜだろう。
 三木ヱ門が帳簿を横に置いて自分も仕事を始めようとしたとき、文次郎が口を開く。
「で、ハライタ女は医務室に押し込んできたのか」
「いえ、大丈夫だと仰るので長屋までお送りし──……え」
 うっかり返事をしてしまってから、唖然とする。
「……先輩、ご存じだったんですか」
「容易に考えられることだ、アホらしい。……で、三木ヱ門、覚悟してるだろうな。あいつがいないせいで仕事が進まん。今日は徹夜覚悟で終わらせろ」
 ぎろり、と隈だらけの委員長に睨み付けられて、三木ヱ門は一瞬固まって、そしてすぐに強く頷いた。
「はい、潮江先輩!」


 のことになると無茶苦茶扱いやすいな、こいつ。
 必死に算盤を弾いている三木ヱ門の前で、文次郎は呆れ半分に思う。
 まぁ、やる気になったのならいいだろう。どうせは来なくていいと言ったところで、明日も意地でも来るに違いない。無理に追い返すよりは、昨日終わらせて仕事がないから帰れと言ってやったほうがすっきりする。
「……ま、たまにはあいつに恩に着せるのも悪くないな」
 呟いて、文次郎は下級生達の帳簿へと手を伸ばした。











超短文失礼しました。



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