中在家長次夢
『布団でいちゃいちゃしよう!長次ver』
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温かな手が、ぽん、ぽん、と私の背を柔らかく叩く。手は時折背から離れて、前髪の生え際から髪の流れに沿って撫でてくれもする。剥き出しの背は少し肌寒くて、その手の温かさは心地良かった。 ぱたぱたと、耳に小さな雨音が届く。雨が降っているから肌寒いのだろうか。 うっすらと目を開ける。長次の部屋だ、と一番初めに思った。外は雨雲が立ちこめているだろうけれど、もう陽は昇ったらしく、灯りがなくても視認出来るほどに部屋の中は明るかった。何時か正確には分からないけれど、たぶん昼にはなっていないだろう。 かさり、と耳の近くで紙がめくれる音がする。馴染んだ音だ。 ゆっくりと周りを確認してみると、私は長次の膝を枕にしていた。長次は布団の上で私に片膝を貸しながら、左手一本で本を読み、右手で私の頭や背を撫でてくれている。肌に直接流れ込んでくる長次の膝の体温と感触に、自分も長次も裸なのだと気がついた。そういえば、昨日はここに泊まったのだ。 ひんやりした冷気が流れてきて、びくりと身体が震える。長次の手が少し動いて、腰元にあった掛け布団を私の肩口までかけてくれた。 見上げると、長次は私の視線に気付いて私と目を合わせ、頭を撫でてまた読書へと戻る。まだ寝ていてもいい、ということだろう。 外の雨音が、少し強くなった気がした。意識がはっきりしてきたからだろうか。小雨ではない、外を出歩くのに支障があるほどの雨量。昨日も降っていた雨は、一晩経っても止まなかったらしい。晴れたら町に出ようと言っていたけれど、やっぱり駄目だったようだ。 長次は相変わらず、私を撫でながら本を読んでいる。耳元の紙音は、酷く規則的だ。頭を少し浮かせて、私は長次の読んでいる本を見る。 「……なに読んでるの?」 本の題名を覗き込もうとすると、長次は表紙がよく見えるように掲げてくれた。私の知っている言葉じゃない。漢字に混じって南蛮語が書かれている、輸入物の書籍だ。私には難しくてよく分からないけれど、長次は読めるだろう。面白い? と訊ねると、否とも応とも区別がつかぬ、曖昧な頷きが返ってきた。 頭を下ろし、また長次の膝を枕にして、手足を縮める。 私も長次の影響で本を読むのが好きだけど、本を読んでいる長次を見るのも好きだ。図書室の奥で本に囲まれている長次を見ていると、何となく落ち着いた気分になる。見慣れた光景だから安心するのかもしれない。今も昔もそうだ。たぶん、これからも。 手を伸ばし、私の頭を撫でていた長次の右手を引き寄せる。自然に繋いでくれた長次のその手を、私の両手で包み込む。鍛錬で鍛えられた手は滑らかでも柔らかくもないけれど、とても器用で優しい。本を読むときはもちろん、私に触れてくれるときも。 傷痕の残る指先一本一本に口付けると、仕返すように長次の指が私の頬を撫でる。くすぐったくてそれから逃げながら、長次の手のひらに幾度も唇を寄せた。 耳元で、ゆっくりと本が閉じられる音がした。 読書の邪魔をしてしまっただろうか。視線を上げると、長次がじっと私を見下ろしている。その瞳には責める色も怒った色もなかったけれど、長次はなにも言わずに、ただ私を見つめている。 身を起こすと、肩まで覆っていた掛け布団がばさりと流れ落ちる。背中にひんやりした冷たい空気が触れて、小さく震えながら長次に身を寄せた。繋がれていないほうの長次の腕が、受け止めるように私の背に回されて、腰元に辿り着いてそのまま引き寄せてくれる。 「邪魔してごめんね」 「……いや」 お前が起きるまで読んでいただけだ、とこんなに近くにいるのに、長次の声は小さい。笑って、私も腕を伸ばして長次を抱き締める。 温かい。まだ眠気の抜けきっていない頭は、ふわふわと酩酊しているようだった。どくどく、触れ合う箇所からお互いの規則的な鼓動だけが伝わってくる。それがなんだかすごく、幸せだった。 少しだけ身を離して、鼻先が触れ合うほどの近い距離で長次を見る。なんだ、と目で問われるのに、唇を寄せて答えた。 長次の唇を舌で軽く舐めると、長次も口を開いて同じように私の唇を舐める。舌先だけ戯れのように触れ合って、それからゆっくり、深く口付ける。私のそれより大きくて熱い長次の舌が、歯列をなぞるように上も下も舐め取っていく。頬の内側の肉とか、歯の裏側とか。私の舌はそこまで届かないから、代わりに舌同士を擦りつけて、甘噛みして、柔らかく吸い合った。始めは目覚めの挨拶のつもりだったけれど、私の身体も長次の身体も、少しずつ熱くなっていく。吸い合って小さく部屋に響く水音に、下腹がぎゅっと絞られたみたいに甘い痺れが走った。 「、もう陽が高い」 「……外、行けないから。ちょっとだけ」 私の下腹に当たる長次のそれが、ゆっくりと形を成していく。お腹から胸まで隙間のないくらいに身を寄せてねだると、数秒迷う素振りを見せた後、長次は私を抱き直して布団の上に柔らかく押し倒す。 下から腕を伸ばすと、長次の舌が私の喉元をべろりと舐める。弱い箇所の感触に震えると、長次が小さく笑った気がした。 「好きだよ」 囁いて、また口付けをねだる。重なる直前、同じ言葉を、唇の触れる距離で長次が言った。 雨はまだ、止みそうにない。 終 |