久々知兵助夢
『布団でいちゃいちゃしよう!兵助ver』
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好きなひとがいれば誰でもそうだと思うけど、もしそのひとと恋仲になれたらこんなことをしたい、という願望は俺にもあった。 たとえば休日には逢い引きをしたいとか、お互いの誕生月には二人きりでお祝いをしたいとか、そのときは彼女が欲しがってたものを前々から調べて買っておいて驚かせてあげようとか、授業以外ではいつも一緒にいたいとか、それを見た後輩とか友達にむしろからかわれたいとか、夜中に『兵助に会いたいから来ちゃった』って彼女が俺の部屋に来てくれたら嬉しいなぁとか、次の長期休みに家族に紹介したいと言われたらどうしようだとか、まあ後半は願望というより妄想だけど、そういったことだ。 その願望の一つに、朝起きたら目の前に彼女がすやすや眠ってて、その幸せそうな寝顔にこっちまで幸せな気分になる、というのがあった。 幸運なことに好きなひととは恋仲になれて、思い描いていたことも大抵は叶うことが出来た。けれど最後に挙げたことだけは、別だ。 休日の前の夜。勘右衛門に頼んで部屋を空けてもらえたら、を呼んで、茶を飲んだり最近あったことを話し合う。その後、まぁつまり恋人同士でやることを一通りやって、布団に寝て抱き締め合ったまま、おやすみを言い合う。もちろん手は繋いだままだ。 で、ここからが想像とは違っていて、そのまま目覚めれば目の前には幸せそうな寝顔のがいて、寝ているのに俺の腕を掴んで離さないから困ったなでも嬉しいなとか、まあそういった恋人同士の甘い感じの、つまり俺が密かに楽しみにしていた展開は、……一切ない。 「……さむ」 肌寒さを覚えて目覚めると、視界はまだ闇に覆われていた。日が昇ろうともしていない、深い夜の空気が漂っている。 布団からぼんやりと起き上がって、なぜ寒いのかを理解した。掛け布団が少し離れたところに丸まっている。覚醒する意識と共に、ああいつものことだな、と思う。立ち上がり、丸まった掛け布団のその向こう、の元へと足を進めた。 はそう広くもないが狭くもない部屋の端っこで寝転がっている。枕を抱き締めて、すぴーすぴーと幸せそうな寝顔。今は真冬なのに、寒そうにすら見えない。敷き布団を振り向いてみて、そこに俺の枕がないのに気付く。一つはが抱き締めているけど……、と部屋を見回してみて気がついた。どうやったらそんなところまで転がるのか、枕は敷き布団を挟んだ向こう、反対側の部屋の端っこの文机の下にあった。 「、風邪引くから布団に戻ろう」 ゆさゆさとの身体を揺すると、はにへらーと微笑んで、ぎゅっと腕の中の枕を一層抱き締める。 「えへへー……へーすけふわふわー……」 「いやそれ俺じゃないから枕だから」 はなかなか目を覚まさない。まぁ、別に無理に起こすこともない。枕ごとを抱え上げ、先に布団へと寝かせる。それから掛け布団と枕を改めて拾い、の元へと戻る。と、そのときはすでにごろんごろんと布団からはみ出していた。もう一度をきちんと寝かせると、枕を取り上げ、その身体の上に掛け布団をくるむようにかける。俺もその隣に寝て、が動かないように抱き寄せた。背に腕を回し、足も絡めてしまえば、もう寝転がることはない。 はしばらくごそごそした後、ようやく大人しくなってまたにへらにへらと幸せそうに寝入る。 共に寝るようになるまで全く知らなかったけれど、はとても寝相が悪かった。正直悪いという程度じゃない。放っておけば枕も敷布もはね飛ばし、どこまででも転がって行く。もともと寒さや暑さに強いからなのか、戸が開いていれば廊下まで転がってそこで平気で寝てしまう。後での同室の子に聞いてみたら、昔からそうだから諦めてくれ、と言われ、最終手段は縛ることね、と真顔で縄を差し出された。 自身にも多少は自覚があるらしいけれど(そりゃ起きたら布団以外のところに寝ていれば、普通は気付くだろう)、なかなか直らない悪癖なんだと、最初に共寝した夜、蹴飛ばされて目覚めた俺にすまなそうに謝った。迷惑かけちゃうから縛ってくれていいですとまで言われたけど、まさかそんなこと出来るはずもないから、気付いたら俺がを布団に戻すのが日常茶飯事になっている。 寝入ったままのが、ゆっくり俺に身を寄せる。俺からも改めて抱き締めると、安心したように身体の力を抜く。その寝顔は、やっぱりすごく幸せそうだ。 思っていたものとはだいぶ違ったけれど、俺はこの悪癖が迷惑だと思ったことは一度もない。欠点なんて誰にでもあることだし、正直寝相が悪いくらい、可愛らしいものだ。それになにより、こうしてと恋仲になって、共に寝ることが出来なければ、知ることのなかったことなのだから。 「へーすけー……」 「うん、ここにいるよ」 たとえば今のままが俺を好きでいてくれて、嫁に来てくれるとしたら。共に同じ家に住み、生活して、子どもを作って、これからの人生の苦しいことも楽しいことも全部一緒にいてくれるなら。 つまりずっとずっと、死ぬまで、こうしていられるってことだ。 の長所も短所も他のひとの知らないところ全部知って愛せるなら、それってすごく幸せじゃないかって、しみじみ思う。 「おやすみ、」 布団に横になっていたら、俺にも眠気が襲ってくる。 次に寒さで目覚めるのは、たぶん朝方あたりだろう。枕は今度はどこにあるだろう。 ぽんぽんと寝かしつけるようにの背を撫でながら、ゆっくり目を閉じた。 終 |