鉢屋三郎夢
『布団でいちゃいちゃしよう!三郎ver』





 二人でしか出来ない愛し合い方をした後は、少しの間頭がぼんやりしてしまう。呼吸を整えてようやく落ち着いた頃には、私よりずっと早く回復していた三郎が、ぜんぶの後始末をしてくれている。起き上がっていた三郎は、私と同じように横になって、お布団を掛けて後ろから私を引き寄せる。
 少し風が強いのか、戸の外でばたばたと木々の揺れる音がする。もう真冬の季節の今、夜中は酷く冷える。さっきまでは暑いくらいだったけれど、その熱は瞬く間に消えてしまうから。
 寒い夜は、お布団の中でぎゅーっとくっついているのが一番暖かい。

「お前、体温高いよな」

 背中から抱き締められ、耳元で笑うように囁かれた言葉に、そういえばそうかもしれないな、と思う。確かに三郎は、私よりも少し体温が低い。でも冷たいとか寒いってことじゃなくて、ちょっとずつ私と一緒になっていく体温が気持ちいい。

「うん。冬はよく友達に湯たんぽにされるよ。実技の後とか特に」
「なら夏は?」
暑いって言われる」
「……子どもの体温だな」

 三郎の笑う気配が私を包む。子どもっぽいと三郎に言われるのは今に始まったことじゃなかったけど、その言葉が引っ掛かって、少しだけ不安になった。三郎の好みと私とは、ひどくかけ離れているだろう自覚はある。

「……三郎、嫌?」
「なにが」
「子どもっぽいの、嫌?」
「……そういう意味で言ったわけじゃない」

 三郎の声が、少し呆れた色になる。宥めるように、その手が私の頭を撫でた。その手つきは優しいけれど。

「じゃあ、子どもっぽいのがいいの?」
「は?」
「よく三郎、私の頭撫でるから」
「撫でやすい位置にあるお前の頭が悪い」
「……えー……」

 どう切り返そうかと思っていると、おかしそうな三郎の声が耳元に触れる。

「子どもだと思ってるやつとこんなことするかよ」
「……ほんと?」
「別に子どもっぽくても大人っぽくてもなんでもいいよ。お前なら」

 ぐっと密着するように引き寄せられて、さっきよりもずっと、私のぜんぶが三郎に包まれる。暖かくて、気持ちいい。目を閉じたら、三郎の気配がもっと近くなった気がした。
 目を閉じたことが分かったのか、三郎が私を寝かしつけるみたいにまた頭を撫でてくれる。その手に安心してしまうのだから、きっと私は本当に子どもっぽいんだろう。……三郎がそれでいいと言ってくれるなら、もう不安に思うこともない。
 身体の力を抜くと、とろりと意識が溶けるように眠りへと誘われる。

「……子どもっぽい、か」

 微かに聞こえた、独り言みたいな三郎の声。

「お前、きっと自分の子が出来ても変わらないだろうな」
「…………私の子?」

 うつらうつらしているときに囁かれた言葉に、ゆっくりと目を開いた。のろのろとした動きで三郎に身体を向けて視線を合わせると、三郎は少し驚いた顔で私を見る。

「どうした。もう寝たかと思ってた」
「……ん、子ども。三郎、欲しい?」

 体勢を変えた私を抱き直してくれる三郎の腕に甘えながら聞くと、三郎は一瞬言葉に詰まった様子になり、目を細めて考えるような間を持ったあと、一言で言った。

「いらない」

 意味を考えるより先に、身体がびくっと震えた。そういえば、三郎は今まで一度だって私の中で出したことがない。それは私を気遣ってくれているんだと思っていたのに。
 ずき、と胸が痛む。それに気付いたのか、三郎が慌てたように私の顔を覗く。

「ち、違う。悪かった。お前との子だろう? 欲しいに決まってるだろ」
「でもいらないって……。子どもが嫌いなの? それとも私の子が嫌?」
「だから違うって! あー、もう、俺が悪かったよ! お前と俺の子以外欲しくねぇよ!」
「でもいらないって」
「だ、だからだな! それとはまた別の意味でだな……!」

 なんだか真っ赤な顔で弁解している三郎に、私はちょっと申し訳ない気分になった。男の人が全員子どもが好きなわけじゃない。三郎は私を好きでいてくれるとは思うけど、だからと言って子まで好きとは限らない。
 ……でももし私と似た子が見たくないだけだったら寂しいなと思っていたら、「おい」と頭を軽くこづかれた。

「なに一人で勝手に考えてんだ。違うって言ってるだろうが、人の話聞け」
「聞くけど……」
「あのな。別に俺は子どもが嫌いなわけじゃない。お前との子なら何人でも欲しい。出来ればお前に似た子のほうがいいけどな、どっちでもいい」
「……じゃあ」
「いいか、笑うなよ」
「……うん?」

 三郎があまりに真剣な顔をするので、私もつられて少し身を固くする。三郎は睨み付けるような強い視線で私を見て、強い口調で言った。

「子が出来たら、お前は俺なんかに構わないだろ」

 なにを言われたのか分からず、何秒かぼーっとしてしまった。

「……え? それが理由?」
「だから言うのが嫌だったんだ……。察しろよ」
「む、無茶だよそんなの。ていうかそれなに?」
「言ったまんまだ。いいか、もし子が出来たら、お前そいつにかかりきりになるだろ。子の世話に忙しくて、もの凄い勢いで放置されている俺が容易に浮かぶ。腹立って赤子の頬とかつねってお前に怒られてる俺がありありと浮かぶ。な? 可哀想だろ?」
「……子どもなのは三郎じゃないかな」
「なんとでも言えよ」

 ぐい、と三郎が私の腕を引いて身を寄せる。また真剣な表情で、私に言い聞かせるように言葉を続けた。

「だから、お前との子が欲しくないわけじゃない。もしお前が産んでくれるならすごく嬉しい。土下座しても頼みたいくらいだ。……けどな、それとこれとは別の話しだからな。お前は俺のであって、子のものじゃない。譲らないからな」
「……三郎、なんかすごく恥ずかしいひとになってるよ」
「うっせ。いつまでもかっこつけてられるか」

 拗ねたのか背を向けてしまう三郎に、私は笑ってその背にしがみつく。三郎はいつも高みでものを考えているし、頭もいいし、私と違って出来ないことはほとんどないだろう。なのに、ときどきすごく困ったひとになるときがある。
 付き合う前には知らなかった、三郎の弱い部分というか、他人には滅多に見せないところだ。
 そのことも全部含めて、私は三郎のことが大好きだ。

「好きだよ、三郎」
「子どもの次にだろ」
「……生まれてもいないのにそんなこと言わないでよ」
「いーや。生まれたらお前絶対に真顔で言う。『子どもが一番大切に決まってるでしょ?』って。『三郎一人でなんでも出来るんだから、邪魔しないで』とか」
「勝手に決めつけないでよ……そんなこと言わないから」
「言われる。絶対に言われる自信がある」
「もー……」

 ちょっと対応に困ったけど、すごく嬉しかった。
 私は幸せだ。……こんなに愛してもらえるなら。

「三郎の子だから欲しいんだよ。私と三郎の子だから」
「……もう少し言え」
「三郎の子だから産みたいし、大事にしたいし、愛したいの。……私一人でじゃないよ。三郎と一緒に」
「……あー、分かったよ」

 三郎はようやく私に向き直って、ため息混じりに私を抱き締める。私の額に、三郎が一つ口付けを落とす。幸せな思いが、心の中でいっぱいになる。本当に、三郎と子をつくることが出来たら。それはもっと幸せだろう。

「子がいなくてもいいよ。でも、出来れば私と三郎が死んだ後、子に生きてて欲しい。私と三郎の子に」
「……ああ」

 伸ばされた手を繋ぎ合って、指を絡めて目を合わせる。

「一緒に年を取ってくれる? 子どもを育てて、一緒に老いて、同じお墓に入ってくれる?」
「……それ、もしかして求婚かよ」
「……だめ?」
「違う。せめて俺に言わせろよ」
「言ってくれるの?」
「お前以外に言う気ねぇよ」

 三郎の目が優しく笑う。その柔らかな表情になんだかすごく、胸の奥がきゅんとした。初めて三郎に恋をしたときのような、傍にいるだけでどきどきする気持ち。
 好きっていう想いが溢れてしまいそうだった。

「俺と夫婦になってくれ。俺が持てる全部で、お前を幸せにする努力をする」
「うん。……私の全部で、三郎と幸せになる努力をするよ」

 ゆっくり、三郎が私に口付ける。柔らかで優しい唇の重なりは、なにかの誓いみたいだった。






「俺と共に生きてくれ」

「私と一緒に生きてください」






 その答えの代わりに、もう一度唇を重ね合った。










 終