七松小平太夢
『猛犬取り扱い方法』後編





 放り込まれてまずなにをされたかと言うと、後ろからぎゅーーーと音がしそうに抱きしめられたことだ。甘えるように背に体重を乗せられて、思わず「うが」と女らしくない声が出た。
「こーへー……重いよ」
「気合が足りないぞー。私ならの三人くらい背負って走れるぞー」
「私が三人もいたら摩訶不思議だよ」
「この間三人いた気がするんだけどなー。いちゃいちゃして幸せだったんだけど、あれなんだったんだろうな?」
「間違いなく夢だから。ってどんな夢見てるの!」
 軽く後ろに向かって頭突きをかましてみたけど、こへの額にちょっと当たっただけでほとんど衝撃を与えられなかった。うー。どこもかしこも規格外……。
 というか、だ。
「なんでいきなりこへの部屋に連れてこられてるのかな、私」
、私に用があるんだろー?」
「うん、まあね」
「なら部屋のほうがいいだろ? いちゃいちゃするには」
「……えっと、私の用事はこへといちゃいちゃすることじゃないよ」
「そうなのか? でも別にどっちでもいいよな!」
「よくなーい!」
 思わず振り返って、こへの顔にばしんと手を叩きつけて引き剥がす。こういうことしてるから、みんなに馬鹿ップルとか言われちゃうんだってば!
「うわ、なにすんだー」
「用があるって言ったでしょ? はいちょっとどいてー」
「別にぎゅーってしてても話は出来るだろ」
「だめ。真面目な話だからちゃんと聞いて」
 少しこへから離れて対面するように正座すると、これ以上食い下がっても無理だと悟ったのか、こへもその場に胡座を組み直した。それでもまだ不満なのか、拗ねた子どものような顔をしている。
「あのね、こへ。私こへに言わなくちゃならないことがあるの」
「私、真面目な話は苦手なんだけどな……」
「分かってるけど、ちゃんと聞いて。大事なことだから」
 ……特に体育委員にとっては死活問題だ。
 さて、と気合いを入れて言おうとしたら、こへがいつになく真剣な顔で私をじっと見ていた。突然どうしたのかと戸惑う私に、こへはぽつりと言う。
「なぁ。その話って、にとっても大事なことか」
「え?」
「私とのことか、って意味だ」
「……直接的に関係あるのはこへだけだよ」
 そう答えると、こへは打って変わって嬉しそうに笑った。あっさりと、
「じゃあ、別に聞かなくてもいいよな!」
「な、なんで!」
「だって私、のことしか興味ないもん」
「そういうこと言って逃げたいだけでしょ! 駄目だよ、聞いてもらうから!」
 こへは複雑なこととか面倒なことに全然興味がない。こへらしいとは思うけど、さすがにはいそうですかと引き下がれない。
「ね、こへ。大事なことだからちゃんと聞いて」
「でもなー、私といちゃいちゃすることしか頭にないしなー」
「……怒るよ、こへ」
「はい、すみません」
 ちょっとむっとすると、こへはすぐに謝った。こういうとき私はいつも、こへは確信犯なのだろうかと疑ってしまう。私が本気で怒り出すギリギリで必ず止めるからだ。
 はあ、とため息を吐いてから(つ、疲れる)、私はようやくに本題を話し出す。
「あのね、こへ。さっき偶然滝夜叉丸に会って聞いたんだけど、昨日体育委員集めて無茶しなかった?」
 偶然という言葉に変えたのは、単に後で滝夜叉丸が怒られたら可哀想だと思ったからだ。こへそういうの大人げないし。
「…………?」
 なにそれ、と言わんばかりにきょとんと黒目を向けられる。あ、これ本気で分かってない。
「滝夜叉丸がすごく疲れてたから声かけたら、昨日こへが委員集めて山できついことさせたって」
「あー、確かに今日の朝まで走ってたけどなー。でも別に無茶してないぞ。山登ったり川渡ったりしかしてない」
「それも程度を過ぎたら十分無茶でしょ。やったこと思い出せる?」
「んー? あんまり覚えてない」
 記憶を探るようにこへは首を傾げているけど、本当に思い出せないらしい。
 ……まぁ今までに気づいてたら、滝夜叉丸がぷっつん行くような事態になるわけないんだけど。
「こへは人より体力も持久力もずば抜けてるんだから、ちゃんと他人に合わせなきゃ駄目だよ。特に相手は後輩なんだから」
「あー、それ委員にも伊作にもよく言われるなー」
 と、こへは悪気のない顔でおかしそうに笑う。反省してない、全然してない。
「言われるならちゃんと気にしなよ。もし委員会のせいで委員が身体壊したり酷い怪我したりしたらどうするの」
 そんなの私見たくないし、こへも望んでいないはずだ。そう言うと、こへは「まぁ、そうだな」と素直に頷く。でもなー、とちょっと困ったように、
「私もそれ言われたときは『気をつけるかー』って思うんだけどな。すぐ忘れるんだ」
「ああ……うん。それっぽいね。うん、分かるけどね……」
 こへも全く気づいてないわけじゃないみたいだし、ならどう言えばいいのかなと悩んでると、「それに」とこへが言う。
「私、動いてるときは基本的に人の話聞かないしな」
「あ、一応自覚あるんだ……」
 あったところで、今の場合は意味がないだろうけど。
「……とりあえずね、こへ。少しずつでもいいから滝夜叉丸とか他の体育委員の話をちゃんと聞いて、自分は大丈夫でも他の委員の言うことを優先して──」
 と当たり前のことを言おうとしたとき、ふいにこへがなにかに気づいたように「お」と声を上げた。
「そうだ、私いいこと思いついた」
「へ?」
 なんか……やな予感。
 私がちょっと顔をしかめた瞬間、突然にこへが私に飛びついてきた。咄嗟のことだったので反応出来ず、そのまま勢いよく後ろに押し倒される。
「いたっ! こら!」
 強く背中をぶつけて思わず声を上げたけど、こへは「すまんすまんー」と口だけで謝って、私に体重を乗せてきた。一応加減してるんだろうけど、こへの身体を楽に受け止められるほど私の身体は大きくない。
「こへー、重いからどいてよ。てか話の途中なんだけど」
「なーなー、私さ、いいこと思いついた」
 やっぱり人の話を聞かずに(動いてなくても聞いてない)、こへは楽しそうに私の顔を覗き込む。
「……なに?」
 とりあえずそれを聞いてからすぐに却下して話を元に戻そうと、私はこへに聞き返す。こへはよく聞いてくれたと言わんばかりに満面の笑みで、とんでもないことを言いだした。

が体育委員に入ればいいんだよな!」

「……はい?」
 なにを言われたか分からなくて、唖然としてしまう。こへは相変わらず楽しそうに、にこにこと続ける。
「私さー、たぶん委員達がなに言っても聞かないと思うんだよな。でもが注意するならちゃんと聞くから」
 うわー!!
 やっとこへが言ってる意味に気づいて、ぞわぞわぞわーっと私の身体に悪寒が走る。
「なななななに言ってんのこへーー! やだよそんなの絶対やだ!」
「なんでだよー、委員会でもと一緒なら楽しいだろ? 私も幸せだし、委員も幸せだし、なんにも悪いことないじゃないか」
「あるよーー!! 私体育委員なんか入りたくないよ! ただでさえ身体動かすのなんて好きじゃないのに!」
 私は部屋でごろごろしたり、のんびり散歩したりするのが好きなのだ。学園一無駄に体力を使う体育委員会なんか、絶対嫌だ!!
「なんかとか言うなよー、体育委員楽しいぞー?」
「そりゃこへは楽しいだろうけどね! こへは!」
 あのずたぼろの滝夜叉丸を見たばかりだから、なおさらに冗談じゃないと思ってしまう。優秀な四年男子であれなのだ、普段さほど鍛えてもいない私なんて絶対について行けない。
「心配しなくても、相手なら手加減するぞー」
 確かに、こへのその言葉に嘘はないかもしれない。でも。
「こへの手加減って、単に『死なない程度』ってだけじゃない!」
 今まで嫌と言うほど無理矢理自主トレに付き合わされてきたから、そのことについては熟知している。しかもこへは身体を動かすことが嫌いな人間なんていないと思っているのか、普段は私の言うことをほとんど聞いてくれるのに、この手のことになると突然話が通じなくなるのだ。
 委員会なんか入ったら、拍車をかけて私の生活が自主トレまみれになってしまう。絶対に嫌だ!
「嫌だってば!! なんでそんなことしなくちゃならないの!」
「いいじゃん。とりあえずいっかいやってみて、無理だったらもっかい試して」
「全然譲歩になってないよ、それが永遠に続くだけでしょ!? とりあえず絶対嫌だから!」
「えー。、私のこと好きだろー?」
「それとこれとは別ーー!!」
 好きならいいじゃん、だからそれとこれとは別だってば、嫌よ嫌よも好きのうちって、意味がちがーう! と私とこへは平行線にただ言い合う。私がなにを言っても、こへの中では私が体育委員会に入るのが最善策らしく、全然意見を変えようとしない。て、手強い……!!
 私とこへは授業が違うから、丸一日会えないことだってザラにある。休日の予定だっていつも合うわけじゃないし、急な実習とかが入ったら予定そのものが流れることもある。それをこへが嫌がってるのも知ってるし、私だってこへと一緒にいたくないわけじゃない。でも。
 それとこれとは本当に別だ。私はまだ自分の身が可愛い。
「と、とにかく駄目! 体育委員会には入らないから!!!」
 ここはきちんと否定しておかないと後々酷いことになる。心を鬼にして強い口調で言うと、こへは「えー」とやっぱり不満げに言って、それから、ちょっと寂しそうな表情になった。
、どうしても嫌か?」
「……ん、うん。ごめんねこへ」
 こへのしゅーーんとした顔を見ていると、さすがに少し罪悪感が浮かぶ。でもここで流されちゃったら絶対後悔するし。
「そっか……良い考えだと思ったんだけどな」
 こへは残念そうな顔で起き上がって、それから私に手を伸ばした。私もその手を掴んで、引かれるままに身体を起こす。
「でもなー、。だったら私どうすればいい? 正直肝に銘じても自信ない」
 脅すとかじゃなくて単に本当に分からないという顔で、こへが言う。ああよかった、話が元に戻った。
 私を委員会に引き入れることは諦めてくれたらしいことに安堵してから、私も考え始める。そうなんだよね、こへ本当に運動してるとき前しか見えてないもんね……。
 だけどそれでも、こへは一応私の言葉なら聞いてくれる。無理だきつい帰ろう嫌だしんどい疲れた、と私が言えば、立ち止まって振り返ることはしてくれる。聞き届けてくれるかどうかは別の話だけど。
 それはたぶん、こへが私を甘やかしてくれているのと、多少は体を気遣ってくれているからなのだろう。……ということは。
「……あのね、こへ」
「んー?」
 こんな風に言うのは自惚れてるみたいでちょっと嫌だけど、体育委員達のことを思ったらそんなの気にしてる場合じゃないし。
「こへ、私になら手加減してくれるんでしょう?」
 こへは自主トレのときは私にだって結構容赦ないけど、委員達のそれより随分マシなはずだから。
「当たり前じゃん。が怪我したら私嫌だし、のことならすごく気にするぞ」
 あっさり真顔で言われて、嬉しくなるより前に『すごく気にして』あの程度なのかとがっくりくる。
 ……いやいや、がっくり来てる場合じゃない。
「じゃあね、たとえば滝夜叉丸とか下級生とかの言葉を、私だと思って聞いてくれない?」
「……ん?」
 理解不能、というこへの顔に、もう少し丁寧な言葉にする。
「委員達が言うことをね、私が言ってると思って聞いて、私に対して気遣ってくれるみたいにしてくれたら、委員達にも手加減出来る?」
「あー、つまりあいつらをだと思えってことか」
 納得行った、という顔になってから、こへは半眼になる。
が言ってることは分かるんだけどな、……あいつらがな……あいつら……うーん」
 途端に悩み出したこへに、慌てて言葉を付け足す。
「そんなに考え込まなくても、ちょっとそういう風に思ってくれるだけでもいいの。……それに、難しいならいいから、違う方法考えよう?」
 最後にそう言ったのは、やっぱりちょっと自惚れてるみたいで抵抗があったからだ。こへはそんなの気にしないだろうけど。
「嫌じゃないぞ? みんなだったら私嬉しいしな」
「いやいやいやいや、別にみんな私だと思って欲しいわけじゃないんだけど」
 そういえばさっきもこへは私が三人いたとかなんとか言ってたけど、大量生産してどうする気なんだろう。
「じゃあ次の委員会のときに試してみる! やってみないと分からないもんな!」
「ほんと?」
「ああ! 私もあいつらが怪我するの嫌だしな!」
 こへは私の言葉に微笑んで、また突然に私を抱き締める。強い力はちょっと苦しいけど、私はこへが頷いてくれたことでホッとした。方法としてはかなり恥ずかしいしそもそも解決するか分からないけど、こへがこれを機会に委員を大切にしてくれるようになったらいいな、と思う。好きな人が後輩に迷惑がられてるのは、慣れてるとはいえちょっと嫌だし。
「……ありがと、こへ」
が礼言うことじゃないだろ? ほんとなら私たち体育委員の問題なのに、気にしてくれてありがとな」
 嬉しそうにがしがし頭を撫でられて、顔が赤くなる。いや、ほんとは滝夜叉丸に頼まれたからなんだけど。ごめんねこへ。
 こへにちょっと悪いなという気持ちとホッとした気持ちとで、私は自分からもこへに身を寄せる。それが嬉しかったのか、こへはまた私をぎゅーっと抱き締める。やっぱり少し苦しいけど、こへとこうしていると幸せだ。今回みたいにちょっと困ったところもあるけど、私はこへのことが好きだから。

 私の名を呼んで、こへは少し身体を離して私の顔を覗き込む。
 その大きな犬みたいな黒い瞳には、優しい色が浮かんでる。こへが私を見るときにいつも向けてくれる、私の好きな瞳だ。
 その瞳でじっと私を見ているこへが私の承諾を待っているのだと気づいて、私はこへの首に腕を回す。こへはいつもの顔で微笑んで、私の頬に手を伸ばす。
 もういちゃいちゃしてもいいよな? と囁かれる声に苦笑しながら、私は力を抜いてこへの腕に身体を預けた。





 いつも、思う。
 こへは私を好きだと言ってくれるし、態度でも行動でも示してくれる。
 惜しみなくその愛情を表してくれるから、私は恋仲になってからその想いが本当かと疑ったことは一度もない。
 けれど私は二人きりのときでもないと想いを伝えられないし行動でも滅多に示せないから、たぶんこへが望むものを全然返せていないと思う。

 だから、言えるときには幾度も言う。
 心からの想いを込めて。今だけでも届きますようにと。


 ──大好きだよ、こへ。
 
 ずっと前から、今このときも。
 貴方だけを。
































 その次の日。
 夕食を食べ終わって食堂から出て、部屋に帰る前にとふらふら散歩をしていたときだ。
 ご飯を食べたばかりで身体がぽかぽかしていて、夜風が気持ちよくて幸せだなーと思っていたら、後ろからばたばたとこちらに走ってくる音が聞こえた。なんだろうと思ったその瞬間、

先輩!!」

 名を呼ばれると共に、がしっと腕を掴まれた。
 …………。
 なんだか、昨日もこんなことがあった気がするんだけど……。
 おそるおそる振り向くと、そこにいたのはやっぱり滝夜叉丸だった。昨日見たときも疲労にまみれた酷い顔だと思ったけど、今日はもっと酷くて、その疲労もどちらかと言えば、肉体的にというより精神的なものに私には見えた。
「ど、どうしたの……?」
 たぶん昨日頼まれたことだろうけど、この雰囲気だとお礼を言われるような流れにはならないだろう。どうしたのかな、やっぱり上手く行かなくて今日も無茶させたのかな、と心配になっていると、滝夜叉丸は諦めたような声音で口を開いた。
「……先輩。七松先輩に私たちを気遣ってくださるようお願いしてくださって、ありがとうございました」
 目上を立てる滝夜叉丸らしく、とりあえずはお礼を言ってくれた。でもそれがたぶん前振りだろうことは、私にも空気で分かる。返事も出来ずに続きを待っていると、滝夜叉丸は案の定、同じ口調で続けてきた。
「ですが、私から言い出したことで大変申し訳ないのですが、七松先輩に『もう私達のことを気遣っていただかなくて結構です』とお伝えいただけないでしょうか」
「……え?」
 あれ?
「気遣ってくれたの? こへ」
「……ええ、まあ。『大丈夫か』とか。『無理なら言えよ』とか、声をかけてくださいました」
 言いながら、滝夜叉丸はなぜか私から視線を逸らす。その顔を追いかけながら、私は不思議に思う。
「えっと……なにがいけなかったの? 声かけてくれたのに、言っても聞いてくれなかったとか?」
「いえ、たぶん言えば聞いてくださったんでしょうけど、もはやそういう問題じゃないんです。……あの……」
 すごく言いにくそうな顔で、でも言わなくちゃいけないという顔で、滝夜叉丸が私をちらちらと見る。やがて意を決したのか、滝夜叉丸はため息を吐いてから、言った。
「あのですね……。七松先輩、委員会が始まって昨日のことを謝ってくださった後、私達にこう仰ったんです」
 じっ、と。滝夜叉丸が私を見る。すごく嫌な予感に一瞬だけ逃げようとした私の耳に、けれど滝夜叉丸の声が届く。

「真顔で、『お前達、これから私のこと「こへ」って呼べ』と」

 その言葉で全てが分かった気がして、くらりと目眩がした。
 でも滝夜叉丸の声はまだまだ続く。

「しかも『私からお前達を呼ぶときは「」って呼ぶからな!』とも」
「…………」
「意味が分からず困惑する私達に、七松先輩は一人一人じーっと観察するように、『やっぱり滝夜叉丸はいくらなんでもでかすぎるなー。かと言って三之助じゃ丸みが足りんし、金吾と四郎兵衛じゃさすがに体格が違いすぎるし、難しいよなー』とかなんとかかんとか」
「…………」
「挙げ句に私達の頭とか肩とかばしばし叩いて、『が何人もいればそりゃ嬉しいけど、こんだけ違うと思いこむのも大変だなー。もっと柔らかいし気持ちいいしいい匂いするし──』」
「わーーーーーーーー!!」
 さすがに叫んだ私に、滝夜叉丸が一度口を閉じる。羞恥にぶるぶる震える私を同情の目つきで見下ろしてから、またゆっくりと口を開く。
「……七松先輩は今日ずっとそのご様子で、しかも本当に『こへ』って呼ばないと振り向いてもくださらないんです。挙げ句『は可愛いなー』とか『のこと好きだぞー』とか頭を撫でてくださったり抱き締めてくださったりで……」
 もはや叫ぶことすら出来ない。滝夜叉丸は淡々と言っているけど、その内容の凄まじさに頭がぐらぐらしてきた。想像したくないのに、頭が勝手にその光景を映し出す。
 ああああああ。無理。もう無理。
 衝撃になにも言えなくなってる私に、滝夜叉丸がぽつりと「すみませんでした」と謝った。
「……先輩。私の頼みを聞いてくださったことには大変感謝してますし、七松先輩が努力してくださってるだろうことも分かります。ですが」
 ずっと掴まれたままだった私の腕を、ぐっっと滝夜叉丸はさらに力を入れて掴む。
「もう泣き言は言いません。ですから、お願いです」
 滝夜叉丸は、昨日のように縋る瞳で、けれど昨日よりずっとずっと真剣な瞳で。
 
「七松先輩を、なんとかしてください」




 もちろん今度は、一も二もなく頷いた。




















 終