中在家長次夢
『本の返却は計画的に』後編



 それから、長次の傍で静かに本を読んだ。返却の処理が済んだらしい長次は、その後は私と同じく本を読んでいた。部屋の中にお互いが頁をめくる音だけが響いて、しばらく時間が過ぎて。
 ふときりのいい場所まで読んだところで、私は本から顔を上げる。さすがに好きな作家の本だけあって没頭して読んでしまったけど、もう私の用事は終わったのだ。長次だっていろいろやりたいことがあるだろう。頁数を覚えてぱたんと本を閉じて、私は長次の前へと回る。
 本から顔を上げて私を見る長次に、読んでいた本を差し出した。
「長次、これ借りたいんだけど、手続きしてくれる?」
「…………」
 長次は本と私に一度ずつ視線を向けると、無言で受け取って手続きをしてくれる。本に挟まれているカードに私の名前を書き込みながら、ぽつりと。
「……、帰るのか」
「え?」
 言われた言葉に、反射的に聞き返した。
「帰らなくてもいいの?」
「ああ」
 長次は間を置かずにそう言うと、本を隣に置いて、私に手を伸ばした。前を向いた格好で膝の上に乗せられて、後ろからぎゅっと抱き締められる。
「用事がないならここにいろ」
「……うん!」
 珍しく強い口調の長次の言葉に、嬉しくてすぐ頷いた。さっき背を預けていたときとは違う、全身を包み込まれる感覚にすごくホッとする。温かくて、大きくて、安心する。
 長次はさらに私を引き寄せて、ぴたりと密着するように強く抱き締める。耳元に軽く口付けが落ちて、くすぐったさにちょっと震えた。
 長次は身体が大きいから、座っていても私との体格差が結構ある。その手で頬に触れられて顔を上げると、私を覗き込んでくる長次と視線が合った。私も手を伸ばして、長次の頬に触れる。少し固い、男の人の肌。
 個室で二人きりにでもならないと、長次は私に滅多に触れない。きっとそれも、私を気遣ってくれている証拠なのだろうけど。
「ねえ、長次」
 名前を呼ぶと、長次はどうした、と目で私に問う。その顔を見上げながら、私はふとさっきのことを思い出す。
 長く借りていた本を返したとき、なんだか長次が少しだけ残念そうに見えたことだ。
「……長次に聞きたいことがあるの」
「なんだ?」
 今度は口に出して問う長次に、私はくるりと長次と向き合うように体勢を変えて、今一度長次と視線を合わせる。
 悶々と一人で考えていることがあまり得意じゃない私は、疑問が浮かんだらすぐ相手にぶつけてしまう。必要最低限のことしか言わない長次と正反対だ。
「あのね。さっき私が長次の本返したとき、なにか気落ちしてなかった?」
「…………」
「私、なにか長次と約束してたこととか、忘れてたかな」
 本を返して残念がられる、そのことの意味がよく分からない。でもまず間違いなく私の挙動が原因だろうし、長次は私を気遣って口にしないだけだと分かるから。
 たとえばそう……返すときになにかお礼をするねって言ったとか、実はそもそも借りたんじゃなくてもらうことになってたとか。
 ……ありそうだ。私結構忘れっぽいから。
「いや」
 即答する長次は、なにを考えているか分からない無表情だ。普段は目を見れば大抵分かるんだけど、今はたぶん意図して感情を出さないようにしている。……余計気になる。
「私、本当になにか忘れてない?」
「ああ」
「じゃあ、長次が残念そうに見えたのは、私の勘違い?」
「…………」
 今度の問いには、長次はなにも答えない。長次は昔からほとんど私に嘘を吐かない。だから何も言わないときは、答えたくないときなのだ。……つまりそれが答えなんだけど。
 長次も私がそう思っていることに気づいているだろう。だから話してくれるかなとじっとなにも言わずに長次を見上げていると、長次はゆっくりと一度瞬いてから、ぽつりと言う。
「……大したことじゃない」
 ん。聞くなということなのだろうけど、そう言われてしまうともっともっと気になる。しつこく聞いて長次に煙たがられるのは嫌だけど、今回はたぶん私のせいなのに。ごめんねと私が謝って済むことならそうしたいのに、長次はいつも私を気遣おうとするから。
 どう言えばいいかなと少し困っていると、長次はちょっとだけ考えるような間を持ってから、私の肩を抱いて引き寄せた。大きな手で頭を柔らかく撫でて、私の耳元で小さく囁く。
「……お前が気になるなら、言うが」
「っ、うん! 教えて!」
 ぱっと気分が明るくなった。
 嬉しくて顔を上げようとしたら、強い動きで長次の肩に額を押しつけられる。……おや?
「長次?」
 不思議に思って名を呼ぶと、長次は一つ諦めたような嘆息を漏らして、私が顔を上げられないようにまたぎゅっと抱き締める。
 どうしたんだろうと思いつつされるがままになっていると、長次は珍しく、自分からゆっくりと話し出す。
「俺は、お前によく本を貸すだろう」
「……ん、うん」
 確かに、しょっちゅうと言える頻度で、長次は私に本を貸してくれる。今日返した本を忘れていた間にも、長次は幾度も新刊本や私の好きそうな本を貸してくれた。とはいえ、それは昔からだ。長次は本が好きで、私もその影響で本を好きになったから。
「……本当のことを言うから、笑うなよ」
「え……?」
 笑うなって言われても、なんのことか分からないのに。とりあえず「うん」と頷いて、長次の言葉の続きを待つ。
 すると長次は、よく分からないことを言いだした。
「俺に本を借りたら、お前はその本をどうする?」
「え? そりゃ……借りた本は読むよ」
「その後は」
 長次がなにを言いたいのかよく分からない。なんだか回りくどい言い方に怪訝に思いながらも、真面目に考えた。
「えっと、読み終わった本は長次に返すよ。…………あ、そっか。長い間借りてて、ごめんなさい」
 ようは私が返すのを忘れていたことが残念だったのかな、ともう一度謝ると、少し強い口調で「違う」と否定された。
「お前もさっき言ったことだ。本を借りたら、返すだろう」
「ん、うん」
 首を捻る私に、長次の声が届く。
「俺がお前に本をよく貸すのは、それが理由だ」
「……ん?」
「本を貸せば、お前は俺に返すだろう。だからだ」
 長次の言葉を整理する。それが理由、ということは、つまり長次は『私に本を返して欲しい』ということなのだろう。
 ……本を返すこと自体が理由、って。
「ごめん長次、よく分かんないんだけど……。長次が私に本を貸してくれるのは、返して欲しいから、っていうことでいいの?」
 確認のために聞いてみると、「そうだ」と長次が言う。それから一瞬躊躇ったような間を持った後、耳元なのにぎりぎりしか聞こえないような小声で、長次は私にその意味を囁いた。

「お前が本を返しに来れば、俺はお前に会える」

 ………………ん?
 囁かれた言葉を、今一度頭の中で繰り返す。
 私が長次に本を返せば、長次は私に会える。そりゃそうだ、返すんだから会えるに決まって…………、え?
「……長次」
 顔を上げようとゆっくり身じろぎした瞬間に、またぐいっと長次の肩に額を押しつけられた。
 その、長次にしては乱暴な動きに、自分の考えが間違っていないことを知る。
 ……照れてるよね、これ。
「あの、長次……」
「……笑うなと言っただろうが」
「……笑ってないよ。驚いただけ……」
 言いながら、確かに自分が動揺しているのがよく分かる。心臓がばくばく言ってる。
 ええと、つまりだ。
「長次は、私に会うきっかけを作るために、よく本を貸してくれた……っていうことなの?」
「そうだ」
 その一言だけで、かあっと顔が赤く染まる。
 単に、好きだとか愛してるとか言われるよりも強烈だった。
 長次はよく本を貸してくれる。それは恋仲になる前からずっとだ。長次の私物のこともあるし、又貸しのこともあるし、図書室の蔵書の中から私が好みそうなものを選んできてくれることもある。それが、『そういう意図』で貸してくれてたんだと改めて思ったら。
 ……すごく嬉しい、けど。
「嫌か」
 なにも言えないでいる私に、長次がぽつりと言う。慌てて、長次の肩に顔を埋めたまま、首を横に振る。
「い、嫌じゃないけど……。……でも長次、用がなくても、私は長次に会いに行くよ」
「だが、用があれば必ず来るだろう」
 言った直後に切り返されて、言葉に詰まる。
 また顔を上げようとすると、今度は長次も拒まずに腕の拘束を解いてくれた。ゆっくりその顔を見上げると、長次はいつもよりちょっとだけ照れたように見える顔で、視線を逸らしている。
 長次が私のことを好いてくれているだろうという自信はある。甘やかされていると、大切にしてもらっているといつも実感している。
 でも改めてこうして好意を示されると、嬉しくて、だけどそれをどう表現していいのか分からなくて困ってしまう。
「長次」
 だからせめてと手を伸ばす。長次の頬を引き寄せて、少し無理矢理に視線を合わせた。ああ、私もきっと顔が赤いだろうけど。
「好きだよ、長次」
 微笑んで言うと、長次は驚いたように僅かに目を見開いて、それからすぐにいつもの顔に戻った。私を引き寄せて軽い重なるだけの口付けをしてから、短く囁く。
「俺もだ」
「……うん!」
 嬉しくて長次に身を寄せると、長次は優しい仕草で私の額や頬に口付けを落としてくれる。それがまた嬉しくてくすぐったくて、私も長次の頬に口付けを返した。
「あはは、長次、顔赤いよ」
 照れ隠しにぱちぱちと長次の頬を軽く叩くと、長次はちょっと嫌そうに私のその手を押し戻す。
「だから笑うなと……」
「面白くて笑ってるんじゃないよ」
 ただ単に嬉しいから笑ってるだけだ。長次の首に腕を回して、強く抱きつく。自分よりよっぽど大きい長次がすごく可愛く思えて仕方なくて、さっきされたみたいに長次の頭を優しく撫でた。
 そのままぎゅーっと密着してたら、触れてる長次の身体が熱くなってきた。温かくて気持ちいいなと思っていたら、「こら」とやんわりと身体を離されそうになる。
「どうしたの」
「あのな……そろそろ離れろ」
「……長次にくっつくの好きなんだけど」
 なにより安心するから。そう伝えてまたしがみつくと、長次は困ったように再度私を離そうとする。いつもなら好きにさせてくれるのになと不思議に思ってから、ああ、とようやく気がついた。顔を上げて、そのまま長次の唇に強く吸い付く。
「っ、……おい」
 一度か二度啄んだだけで、長次が私の頬を離して口付けを解く。そのやっぱり困った様子に微笑んで、近い距離で長次の瞳を覗き込む。
「しよっか、長次」
 言った途端に、長次の瞳が少し揺らめく。ちょっとだけ目を細めてから、私の腰に腕を回す。
 ああ、やっぱりしたかったんだ、と私は嬉しくなる。
「いいのか」
「うん。私、明日は実技授業ないし。長次は?」
「……俺は、あってもなくても構わないが」
「あー……」
 私が次の日辛いからという理由だけで長次にも聞いたんだけど、よくよく考えれば私に合わせた情事なんかで長次が次の日に疲れを残すわけがないかなとも思う。本気になったらどうか分からないけど、長次は身体を重ねるときは特に私を気にしてくれるから。
 一度長期休みに家に帰ったときとかに気遣わなくていいよと言ってみようかと思ってるけど、さすがに学園にいるときには言えない。私きっと、次の日寝込むだろうから。
「ならしよっか」
 私もその気なのだと伝えれば、長次はそれ以上拒まない。また熱が上がった気がする長次の身体にどきどきしながら、私はさっきよりも強く長次の唇に吸い付いた。




「……ふっ……ぁ、長次……」
 さっきは雨のせいで肌寒いと思ったのに、今はもう暑いと感じるほどだった。くらくらと酔ったように頭に熱が集まって、どこに触られてもびくっと震えてしまう。
 そのままで良いと言ったのに、長次はきちんと布団を敷いてくれた。長次の布団を汚してはいけないと思うのに、秘所を舐め上げられる音と共に、お尻の方にとろとろ蜜が伝って行くのが分かる。仰向けに見えるものは部屋の木目の天井だけで、それでも全身が長次に与えられるものに染まっていた。
 長次と寝るのは二十日ぶりくらいで、久々だということもあって長次はいつもよりちょっと性急だったし、私も身体の準備が整うのが早かった。ぐるりと長次の長い指が中を探るだけで、疼くような痺れが走る。物足りない、と素直に思って、次の瞬間恥ずかしくなった。
 私ばかり酔わされているのがちょっと不満で長次のに手を伸ばそうとすると、「しなくていい」と手を掴まれた。そのまま長次は私の手を頭の上に押しつけて、私の耳元や首筋に弱く吸い付くのを幾度も繰り返して、赤い跡を残す。
「長次にもつけていい?」
「……後でな」
 最後に額に軽く口付けてから、長次は改めて私を組み敷いて目を合わせる。汗ばんだお互いの肌は、今は私のだけが少し乱れた呼吸に上下してる。長次の筋肉のついた身体は固いし手触りがよいわけでもないのに、身体を合わせているだけですごく気持ちいい。壊れ物を扱うみたいに優しく包み込まれてしまうと、すごく安心出来て心地良くて、長次がもっと欲しくなる。
「いれて、長次」
 その頬を引き寄せて鼻先をすり合わせると、長次は私をなにも言わずにじっと見てから、私の足に手を伸ばして膝裏を押し開く。咄嗟にぎゅっと目をつむった直後、ぐ、と私の中に長次のそれが入ってくる。
「う…………、っ、あ」
 痛みはないけど、強い圧迫感に身が震える。長次の背に腕を回してすがりついて、ずぶずぶと自分の中に全て埋め込まれて行くのを待った。
 長次のそれは、たぶん普通の人より大きい。だから長次がどんなに丹念に慣らしてくれても、最初はいつも苦しくなる。それを知ってるから長次も最初から強い動きはしないし、私がいいよと言うまでは動かさないでくれる。
「ん……っ」
 お腹いっぱいに埋め込まれたような錯覚が起こるほど、私の中が長次だけで占められる。入りきったらしくようやく身体の動きを止めて、長次は手負いの獣に似たきつい瞳で私の唇を柔く吸う。至近距離の情欲に濡れた瞳に、動かされてもいないのにぞくりと中に痺れが走る。
「ご、め……もうちょっと待って」
「ああ」
 長次はすぐ頷いてくれるけど、本当は早く動かしたいんだろう。私の膝裏を掴んでいる手が、堪えるように軽く爪を立てる。でも私もここで安易に頷いてしまうと後が辛いし、それに気づくと長次も気にする。だから息を吐いて力を抜いて、出来る限り早く長次を受け入れられるようにと努めた。
「……悪い」
 苦しげな顔になっていたのか、長次も痛みに耐えるような表情で私を覗き込む。長次だって我慢してるなら、私と同じなのに。それがおかしくて微笑むと、無意識に入れていた力が抜けたのか、下腹が少し楽になった。
「……長次、動いていいよ」
「…………」
「嘘じゃないよ、いいって」
「…………」
 いいよと言ってるのに、長次の目が信じていない。さっき苦しそうにした後だったからかもしれないけど、もう本当にいいのに。
「じゃあ私が動くから……、っう、あ、や……長次!」
 業を煮やして動こうとした瞬間、長次がずぶりと突き上げて中が蠢いた。突然の強い刺激に身体全体が震えて、視界が滲んだ涙に揺れる。そのまま腰を抱え直されて、ゆっくりと抜き差しされる。
「っ、う、……あ、や、だめ……っ」
 最初はそれでもまだ気遣う動きだったのが、幾度か打ち付けられた後はだんだんと大きくなった。どろどろに溶けそうな中に固い肉が擦るのがすごく気持ちよくて、ぼうっと頭が痺れてくる。それでも一際大きな動きで突き上げられたときには、刺激の強さに思わず声を上げた。
「あっ──! ……う……、んっ」
 突然に上がった自分の嬌声に驚いて、慌てて自分の口を手で塞いだ。まだ昼間、雨が降っているせいで生徒達の多くは部屋にいるから。
「ちょ、うじ、もうちょっとゆっくり……」
「……声が気になるか」
 もう長次も酔ってるのか荒い息で、私の口元から手を外させる。問われたことに頷くと、長次は噛み付くように私の唇を奪って舌を絡めてきた。
 同時に、揺さぶりがまた強くなる。もう勝手に漏れる嬌声は長次の舌に包まれてくぐもったものにしかならなくて、ただ長次に与えられるがままに昂ぶり続けた。
 唇を重ね合い舌を絡め合ったまま、長次の瞳に射すくめられているのがすごく嬉しい。全部奪って欲しくて私からも腰を動かそうと身じろぎした瞬間、突然に口付けを解いて肩を掴まれ、膝を持ち上げられてぐるりとうつ伏せに組み敷かれる。繋がったままの大きな動きに抜けそうになったのを、ぐっと腰を引き寄せられて最奥まで埋め込まれて、また抽出が再開される。
「……あ、……んんっ!」
 さっきとは違う体勢で繋がったことで、新しい種類の刺激が身体中に走る。声を漏らさないようにと敷布を強く握り締めながら唇を噛んでいると、長次の指が私の唇に触れて、そのまま口の中に二本こじ開けるように入ってくる。もうなにも考えられなくて、与えられたそれを必死にしゃぶった。貫かれながら、長次の指の爪先から付け根まで夢中で舌を這わせて甘噛みしていると、首元で長次が苦しげに息を吐く。
 ずるりと口の中から指を抜かれたとき、今まで以上に強い動きで長次のそれが奥を掠めた。背筋に強烈な甘い痺れが走り、力が抜けそうになる。強張ってきた足はもう身体を支えられなくて、落ちそうになる腰を長次の腕が抱え上げる。そのままがつがつと私の弱い、深い場所だけ攻められて、意識が飛びそうになる。
「長次、……だ、め。そこ、深い、から」
 長次が笑う気配がする。ふかいほうがすきだろう、と囁かれて、羞恥に頭が染まる。
「やだ……や、あ、長次……っ」
 長次の先端が、私の弱いところを的確に捕らえて抉る。涙がぼろぼろこぼれ落ちて、身体の中から弾けそうになる。
 すごく気持ちいい。でも恥ずかしい。私の頭の中は、もうほとんどが『達したい』ということだけで占められていた。力の入らない身体で長次を振り向くと、すぐ傍に長次の顔がある。その瞳にいかせてほしいとねだると、押し潰すように組み敷かれて攻め立てられて、そのまま勢い良く頂点に叩きつけられた。

 びくびくと達した余韻で身体に痺れが響いて、そのたびに脳が溶けそうになるほどに気持ちいい。どっと滲み出た疲労に喘いでいると、長次が後ろから私の身体を抱えて起き上がらせて、強く引き寄せる。
「悪い、俺はまだだ」
「っちょ、……んーーっ」
 長次の膝の上に乗せられて、今度は後ろからの座位の形で突き上げられる。達したばかりの身体にはその衝撃は強すぎて、抗議の言葉すら全部ぐちょぐちょになってしまう。長次の手が私の胸の膨らみを包んで強く揉み込み、首筋を強く吸い上げる。いつもなら痛みを感じるだろう乱暴な愛撫にも、今はもう心地良いとしか思えない。ただ揺さぶられるままに、全身で長次だけを感じ続けた。
 私の身体を強く抱き締めて貪る長次の吐息が、限界を思わせる酷く荒いものになる。涙で前が見えない瞳を閉じてぐっと下腹に力を入れると、僅かな低い呻き声と共に、長次が私の中から勢い良く引き抜いた。その瞬間に腰から背に温かい長次の精がぴしゃりと音を立てて跳ねて、とろりと私の肌の上を滑り落ちていく。
 手足が思うように動かせない。震える身体で長次に擦り寄ると、長次の指が私の額の汗を拭ってくれる。ただその接触だけでもびくりと震えてしまって、直前までの行為にどれほど自分が酔っていたかを思い知らされた。
 長次は私の身体を抱き締めて、顔を後ろに向かせて唇を優しく吸ってくれる。呼吸を求めて喘ぎながら、それでもお互いの舌を舐め合って、一番近くで愛し合う。
 そうしているうちに出したばかりの長次のそれが芯を持ち始めて、いいかと目で尋ねる長次に笑って答えて、二人してまた布団の上になだれ込んだ。












「……あれ?」
 睦み合った後。
 後処理が終わって汚れた敷布をたたもうとしたとき、ふとさっきのやりとりを思い出して首を傾げた。長次、と呼びながら振り向くと、長次は情事の匂いを消すためだろう、廊下に面した戸を開けてから、私を見る。
「どうした、
「あのね、さっきの……。あ、その前にこれどうする? 一緒に洗い場行く?」
「……俺は共に行っても構わないが」
 ちらりと含みのある視線を向けてから、長次は今度は窓を少し開ける。途端部屋を通る風が、火照った頬に気持ちいい、けど。
「あー……一緒に行ったらばればれかぁ……」
「部屋の隅にでも置いてくれ」
 後で他のものと一緒に洗う、と言う長次に頷いて、汚れた箇所を包むように敷布をたたんで、部屋の隅に置く。長次は敷き布団を押し入れに直してから、私の元に足を進める。
「それで、なんだ」
「あ、そうそう」
 よいしょ、と畳の上に座ると、長次も私の前に座る。もう情事の名残は見えない長次の顔に「さっきのね」と話し出す。
「本貸してくれるの、私が返すときに会えるからって言ってくれたよね?」
「……ああ」
「でもね、そもそも私が本返したとき、長次は残念そうな顔してたんだよね?」
 そう、元々はその理由が聞きたかったのだ。本を返して残念そうな顔をされるのはどうしてか、というのが疑問だったのに。なんか嬉しくて忘れてた。
「……同じことだが」
「ん? どういう意味?」
 じーっと長次を見上げると、長次はちょっと沈黙してから、やれやれと言う。
「……俺に本を返すのと共に、後輩に頼まれて図書室の本を返却しに来ただろう」
「うん。……それがどうしたの?」
 だからなんでそれが残念なことに……と言おうとした瞬間に、長次の答えが落ちた。
「それが別々なら、二度お前に会えると思っただけだ」
「…………え」
「だから残念だと思ったんだ」
 もういいだろう、と照れたのか拗ねたのか立ち上がりかける長次に、ほとんど反射的に勢いよく飛びついた。慌てて私の身体を受け止めてくれる長次に、微笑んでぎゅっと強くしがみつく。
「長次、大好き」
 突然の告白に身を固くする長次に、耳元で続けて囁いた。

「だから、これからもたくさん本貸してね?」




















 終