| 『10000文合わない』 (田村三木ヱ門?) |
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そのとき私は、食堂で昼ごはんを食べていた。 休みの日だったので外で食べている生徒も多いのか、いつもと比べて食堂はさほど混雑していない。仲の良い者同士で机を囲む生徒達の、休日特有の気の抜けた食堂の雰囲気の中、突然にどたばたと凄い勢いで走ってくる音が聞こえた。 それくらい、別に珍しいことじゃない。すぐ隣で焙烙火矢が爆発したり、六年生同士が凄まじい喧嘩をしていたりするのが日常茶飯事の忍術学園だ。私も特に気にも止めずに食事を続けていたら、その足音は食堂の中に駆け込んできた。 そして次の瞬間、 「三木ーーーーーーーーーーーーーーー!」 反射的に、勢い良く立ち上がった。がたん、と私の座っていた椅子が揺れて、真向かいで一緒に昼食を食べていたタカ丸さんがびっくりしたように目を丸くする。ざわついていた食堂内は突然に水を打ったように静まり返り、生徒達は大声を出した女子生徒に一斉に目を向け、そして次に、その女子生徒に呼ばれた私へと視線を向けた。 「……先輩?」 食堂に飛び込んできたのは、委員会の先輩……というか恐れながらというかなんというか私の恋人でもある先輩だった。先輩は私の姿を見つけると、食堂内の生徒達に注目されているのをものともせず、すごい勢いで駆け寄ってきた。 「三木!」 「ど、どうしました、先輩……っえ!?」 私の目前まで足を進めた先輩は、私の両手を掴んでぎゅうっと握り締めた。嬉しいのと恥ずかしいのとで混乱する私に、先輩はずいっと顔を近づける。そして、一言。 「三木。……とてもまずいことになりました」 一瞬、逃げようかと思った。 それまで突然の先輩の登場と手を握られたことで慌てていた私から、すーーーと音を立てて血の気が引いていく。いつもは大胆不敵、阻む者はどこからでもかかってこい返り討ちにしてやるぜと言わんばかりに堂々としている先輩の顔が、真っ青だったからだ。冷や汗まで浮いてるし、私のそれを握っている手は小さく震えている気もする。 これはもう、先輩が言ったとおり、そーとー、そーーーとーーーにまずいことが起こったに違いない。 「先輩……逃げてもいいですか」 「出来ることなら私も逃げたい! でも逃げない! だから三木も逃げちゃ駄目、私と一緒にいて!」 思わず口から出た言葉に、先輩はぎゅうううっと強く強く私の手を握り締める。絶対離さないぞ、と言うように。これがたとえば全く違う意味で胸がときめくような場面だったらすごく嬉しいけれど、今はものすごく嫌な予感しかしない。正直言って本当に逃げたい。 先輩を突き飛ばして逃げようとまではもちろん思わないけれど、それでもこの嫌な予感は尋常じゃない。いったいなにが起こったのか。聞きたくない、ああ聞きたくないと思っていると、先輩はその私の思考を読んだのか、ますます私に身を寄せて顔を覗き込んできた。 大きくて、真っ直ぐな、真摯な瞳。そして、熱のこもった声音で。 「三木。私と三木は仲良しだよね? いつも一緒だよね? ずっと私の傍にいてくれるよね?」 「はいっ!」 その言葉に嬉しさが勝って、反射的に大きく頷いてしまった。 先輩は途端に、ようし言質取った、というように薄く微笑みながら、私の腕を引く。 「じゃあ三木、私と一緒に地獄へ行こうか……」 「地獄っ!? あの、先輩、一体なにが──」 「急いで三木! 左門と一年坊主も拾ってくから!」 「やっぱり委員会絡みですかああああああ!」 「ちょっ、三木ヱ門君、このご飯どうするの!?」 慌てて声をかけるタカ丸さんに「ごめん斉藤タカ丸、君が始末してあげて!」と先輩は鋭く叫んで、私を連れて勢いよく食堂を出て行った。 「……なにがあったんだろ」 二人が食堂から走り出て行った後。少しずつ元の喧噪に戻る食堂で、タカ丸は三木ヱ門の盆から食べ終わっていない小鉢を取り上げて代わりに食べ始める。会計委員はいつも徹夜だとか鍛錬だとかで忙しそうなのに、あのくのたまの様子からしてとんでもないことが起こったのだろう。僕は火薬委員でよかったなーとのほほんと思っていると、食堂のあちこちからふらりと生徒達が立ち上がって、盆を返して食堂を出て行く。 その様子をじいっと見て、タカ丸は軽く首を傾げる。今出て行った生徒達になにか共通点があった気がするのだが。 「どこの委員だったっけ……?」 会計委員室にたどり着く前に、学園内をさ迷っていた左門とそこらで遊んでいた左吉と団蔵を見つけ出した。先輩は私のときと同じく有無を言わさぬ勢いで三人を引っ張って、そのままの勢いで委員室の中に放り込む。 そしてそのすぐ後に苦虫を噛み潰したような恐ろしい顔の会計委員長がやってきて、臨時の委員会活動が始まった。 それはまあ一言で言うと、確かに地獄のようなものだった。 張り詰めた空気の会計委員室。緊急に集められた委員達は、正座をしてその空気に耐えている。 胡座を組んで顔をしかめる委員長は、いつもより隈が増えた気がするほどに形相が酷い。 上級生の私ですら裸足で逃げ出したくなるようなその場で初めて口を開いたのは、当たり前と言うか会計委員長の潮江先輩だった。 呻くような低い声で、一言。 「……会計帳簿に誤差が出た」 その言葉に、しん、と一度会計委員室が静まり返る。それから次の言葉を言おうとしない潮江先輩に、下級生達はおどおどと自分達の顔を見合わせる。私も眉をひそめて先輩を見たけれど、先輩はただじっと畳の上に視線を向けている。 「あの……それは、どういうことですか?」 仕方なしに私が口を開くと、潮江先輩は一つため息を吐く。 会計帳簿に誤差が出る。これは決して珍しいことではない。なんせ、膨大な数の会計計算をたった一度でも間違えれば、合わなくなってしまうのだ。勿論許されないことではあるけれど、委員の特性から言って誤差が出るそれ自体は日常茶飯事と言ってもいいことだ。 潮江先輩は私と同じようなことを考えているのだろう委員達を見回してから、最後に先輩へと目を向けた。視線を向けられたことが分かったのか、先輩がゆっくり顔を上げる。 「会計帳簿が合わないのは、お前らが思っているように確かにいつものことだ。だがな」 そこで言葉を切って、潮江先輩は今一度先輩を見やる。 「言え、。何文合わない?」 問いかけられて、先輩は似合わない、青ざめた顔で口を開いた。 「いっ……」 絞り出すような声音で。 「いちまんもん、です」 先輩の言葉を頭の中で漢字に変換して、私達は絶句した。 「つまり何貫だ、」 「十貫です」 「ああああああありえませんよ!!!」 思わず大声で叫んでしまった。 「え、え、誤差がですか!? 誤差が十貫なんですか!?」 「嘘でしょう潮江先輩、そんなの無茶苦茶です!」 「どうやったらそんな誤差が出るんですか!」 私の言葉に続いて、下級生達も続けて叫ぶ。けれど潮江先輩も先輩も、ただじっと押し黙っている。私だって、二人がこんなくだらない冗談を口にしないことくらい分かっている。でも、だ。 「十貫ってそんな、間違えるような単位じゃないです! 一貫で千文なんですよ!? 一万文で十貫なんですよ!?」 あまりに動揺して、当たり前のことを口走ってしまった。けれど私の隣の左門が、「田村先輩の言うとおりです!」と勢いよく身を乗り出す。 「そんなのいくらなんでもおかしいです! 十文の間違いじゃないんですか!?」 「……と言っているが、。お前が見つけたんだろう。間違いか?」 潮江先輩が振った言葉に、先輩は弱々しい動きで小さく首を横に振った。その滅多に見ない先輩の憔悴した様子に、うっ、と私達は引いてしまう。 先輩は私達が何も言えずにただ驚愕しているのを見てから、文机の上から一冊の帳簿を取り上げた。会計帳簿はその用途別に何種類もあるが、先輩が持っているのはその中でも私達会計委員が管理している全会計費の収支が書かれているまとめ帳簿だ。学級費も各委員会費もその他細かなことに至るまで、一年の会計費の大まかな推移が書かれている。全会計費、つまり一番大きな金額が記されている帳簿、と言い換えてもいい。 「これね。なんか細かい計算が合わないから、全部計算し直してみたの」 先輩は諦めたように、落ち着いた声音で言う。 「そしたらね、何度やっても十貫赤が出るの。……十貫よ」 「そ、そんなのありえません……!」 左門がぶんぶん首を横に振っている隣で、一年生二人もぎゅうっとお互いに縋るようにくっついて、うんうんと頷いている。私も同意したいけれど、先輩が計算を間違える……しかもこんな金額を、なんてことはそれこそあり得ない。 「信じられないなら計算してみればいいよ。誰かやる?」 先輩が帳簿と算盤を差し出そうとするけど、誰もそれを受け取ろうとしなかった。実体験するほうがずっと怖い。無言の私達の拒絶を見取って、先輩はその二つを引き戻してまた文机の上に置いた。 「……で、だ。誤差が本当ならばその原因だが──」 潮江先輩の、まさに地獄の閻魔を思わせる低い低い声音に、びくっ、と私達は身を震わせる。 ぎろり、と潮江先輩が睨みつける一人の委員に、他の委員も自然と目を向ける。 全員に視線を向けられて、その委員が「ひっ」と後ずさったその瞬間、次々とかけられる疑惑の声。 「またお前か、団蔵」 「団蔵よね」 「団蔵だろうな」 「団蔵か……」 「は組だしな」 「全員一致でやっぱり僕ですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 「他に考えられんだろうが! 今度はなんだ、一文を一貫とでも書いたのか!? 大体、こいつの書く字の管理はお前に任せたはずだぞ、!」 矛先を向けられて、先輩がむっと顔をしかめる。あまりに酷い団蔵の字に、潮江先輩は今後こいつの指導にあたれと先輩に言っていたのだ。先輩は潮江先輩を睨みつけ、鋭く言い返す。 「ええ、その通りです! ですから今回のことは団蔵のせいじゃないと思います!」 「え……先輩、さっき思いっきり僕のこと疑ってたじゃないですか……」 「空気読んだだけよ! あの団蔵の字汚い事件があってから、私は団蔵の書く字は全て確認して、読みにくいところは修正してるんです! ですから団蔵のせいじゃありません! 私が保証します!」 「先輩っ……! ありがとうございます……!!」 きらきらきらきら、団蔵が先輩に憧憬の眼差しを送るが、隣で左門が「全部の字を確認って、団蔵いる意味ないんじゃないか……」とぽつりと呟いている。私もそう思う。 「じゃあ誰だ! おい田村! 帳簿確認はお前の仕事だな!?」 「は、はい! ですが三日前に見たときはそんな誤差は……ていうか明らかにおかしいですよ、十貫ですよ!?」 一家が数ヶ月暮らして行けるほどの金額だ。確かに全会計費を足せばそれを超える金額にはなるだろうが、これだけの金額の誤差が出るのはあまりにもおかしい。 「、本当に一万文だな?」 「くどいです、委員長。私がどれだけ計算し直したと思ってるんですか」 睨み付けられた先輩は、負けじと血走った目で委員長を睨み返している。さっきのような憔悴しきった顔じゃない、『おいコラ文句があるなら叩き潰すぞ』という気迫に、私はこんな場面なのに安堵した。これでこそいつもの先輩だ。 「ならば……おい、左門」 「はっ、はい!?」 「お前、とうとう計算まで迷子になるようになったか」 「委員長! とりあえず誰かに責任を押し付けてしまえという意図がプンプン見えるんですけど!」 「ていうかですね、僕じゃなかったら左吉だって怪しいですよ! いつもつーんってお高く止まってるい組だから、こんな致命的なミスを犯すんです!」 「な、なんだと、アホのは組に言われたくない! 大体、は組に算術で負けるはずないだろう! 全員合わせて100点のくせして!」 「それだけじゃないぞ! その点数のほとんどを委員長の庄左ヱ門が取ってるんだ! すごいだろ、うちの庄左ヱ門は!」 「威張りどころが間違ってるんだよ、お前達は!」 もう無茶苦茶だ。やれやれと私が息を吐いた時、潮江先輩が先輩の隣に移動して目で合図する。先輩は問題の帳簿を取り上げて、無言で潮江先輩に手渡した。 どったんばったん喧嘩し始めた一年生を無視して、二人は向き合う。先輩がちょいちょいと手招きするので、私もその隣に座る。左門はしかたないなー、という顔をして一年生を止めにかかった。 「で、なにが原因だ。そろそろ吐け」 「おやお分かりですか、委員長」 「そんなくだらん誤差が出るはずないだろうが。お前が最初から謀っていた理由も含めて吐け」 潮江先輩と先輩の小声でのやりとりに、ああやっぱりそうか、と私は思う。先輩はまったく打たれ弱くないから、こんな事態になったら徹底的に原因を探すはずだからだ。さきほどの落ち込んだような様子もフリだったのだろう。 「とりあえず帳簿を直接確認してください」 言ってから、先輩は私に視線を向けて、そっと目で部屋の外を指した。私もそれを悟って、顔を強張らせた。勘付かせるなと先輩の顔が言っているので、答えの代わりに声を上げた。 「ていうかですね、お二人とも私達に責任を押し付けようとなさってますが、先輩方が原因ということもあるんじゃないんですか?」 「あーら、言うようになったわね三木。無駄にギンギンに忍者してるヘタレ委員長ならともかく、私が計算を間違えるわけないでしょ! ヘタレ委員長ならともかく! ヘタレ委員長ならともかく!」 「誰がヘタレだコラ、ふざけんなこのくそアマが! ……調子に乗って本音言ってんじゃねーよ」 最後はほんの小声で言って、潮江先輩は帳簿を先輩に返す。これも、先輩と私にしか聞こえないほどの小さな声で。 「ふん、なるほど。油断させようって魂胆か。最初から気づいてたな、お前」 「いえ、大分計算してから気づきました。不覚です。……でしたら委員長、いっそ拳で決着をつけるというのはいかがですかー!? 会計委員らしく!」 「はっ、望むところだかかってこい! おい三木ヱ門、お前は俺とこのアホのどっちに付くんだ!」 「三木は私側に決まってるじゃないですかー! ねぇ、三木!? ……三木、ここよく見て」 がし、と私を後ろから抱き締め……拘束しながら、先輩が私に開いたままの帳簿を押し付ける。指された箇所を言われたとおりにじっと見て、そして……微かな違和感に気づいた。 言われなければまず分からなかっただろう。これを即座に見抜いた潮江先輩と、途中で気づいたという先輩を素直に凄いと思った。それから、この事態の意味を察する。 「……いえ、私はお二人どちらにも付きませんよ。横暴な先輩方にはもうついていけません」 言いながら、下級生を見る。まだどたばた喧嘩し合っている一年生とそれをげんなりと止めている左門に向けて、会計委員専用の矢羽音を飛ばした。簡単な意味だ、『気づけ』。 びく、と三人は動きを止めて、一斉にこちらを振り向く。そのとき、戸の外の気配が明確になった。油断して気配を消すのを止めたのか。 「で。どうしますか、委員長」 もう演技する必要もないと思ったのか、愉しげな表情で先輩が問いかけると、潮江先輩も不敵に笑う。 「迎え撃ってやれ、殺す気でな。……お前達もだ」 怪訝に思っている下級生達も、言葉を振られてなんとはなしに意図を察したらしく、緊張した面持ちになる。 先輩は左手で苦無を取り出しながら、もう片方の手で私の肩を強く抱く。 「三木、火器がなくてもやれるわね? 期待してるわよ」 「……はい、任せてください。どこまでもお二人にお供します」 さっきと正反対の、今度は本音を口にしてから、私はぱたんと帳簿を閉じて文机の上に放り出した。それを合図に、潮江先輩が声を上げる。 「で。いつまでそこにいる気だ、作法委員」 その瞬間。 「気づくのが遅かったな!!」 すっぱーーーん、と気持ちの良い音を立てて委員室の戸が開かれ、勘に障る声が響いた。会計委員達が視線を向けた先には、いつ見ても艶々しい黒髪と整った顔立ちの、うちの委員長とはそれこそ真逆の作法委員長が立っていた。その周りには、当然のように作法委員が。 「思った通りだな、知性の欠片もない会計委員。私達が委員の字を真似て帳簿を小細工しただけで、あっという間に仲間割れだ。いいかお前達、これも戦術の一つだ、覚えておけ。まあ、こんなものに引っかかるのはアホな会計委員だけだろうがな」 「仙蔵……これはどういうことだ」 「おやヘタレ、もとい文次郎。こんな簡単なことにも気づかないとは、委員長としての自覚が足りないのではないか? 洞察力に鋭いのが忍としての鉄則だ、それすら出来ないならいっそ退学してしまえ。私もこれでお前の暑苦しい顔を毎日見ずに済む」 「きっさま……」 潮江先輩を挑発する立花先輩の後ろから、ひょい、と会計委員室を覗き込んでくる作法委員達。喜八郎はきょろきょろと興味深げに部屋の中に視線を向け、藤内は一人ですみませんすみませんと頭を下げ、兵太夫と伝七はお互いの同級生ににこやかに手を振っている。 初めは呆気に取られていた左門、団蔵、左吉の三人も事態を把握して怒りをあらわにし、殺気を漏らし始める。 「……仙蔵、なぜこんなことをした」 「なぜ? 愚問だなこのボケ、まだ気づかんのか。先日の予算会議、総予算がギリギリだとかでうちの活動資金を大幅に削ってくれただろう。まったく納得行かんのでな、どれほど会計委員がモノにならんかを確かめてやろうと思ったのだ」 「……言いたいことはそれだけか」 「喜八郎、今起こったことをすべて各委員会に報告してやれ。こんな奴らに予算を組ませていてよいのか、とな。どうだ文次郎、なんならうちが片手間に予算を組んでやっても良いんだぞ?」 ぴき、と。委員室の空気にヒビが入る。かなり前から察していた分まだ冷静な委員長と先輩はともかく、私含めた会計委員達は怒りを抑えられない。 ……ぶっ殺す、作法委員。 思わず小声で吐いた私の悪態に応じるように、潮江先輩と先輩が立ち上がる。私と下級生も、自然とそれに続く。 「……あまり会計委員をナメるなよ、仙蔵」 潮江先輩はぐるりと委員達を見回し、全員が戦闘態勢に入ったことを確認する。 立花先輩は愉快そうに微笑んで、私達を挑発するように軽く首を傾げた。 「ほう……ならば、ヘタレな会計委員はどうするつもりだ?」 「決まってるだろ、全員ぶっ殺す! いくぞお前ら、ついてこい!」 『はいっ!!!』 「そうこなくてはな! 喜八郎、罠の準備は!」 「任せてください、立花先輩」 「喜八郎……! お前、予算を組む辛さも知らないくせに!!」 「藤内ーーーー! これはなんの嫌がらせだよ!」 「ごめん左門、僕はやめましょうって止めたんだけど……ちょっと、話聞いてよ、左門!」 「やっぱりな! アホのは組は絶対気づかないと思ったよ!」 「またそれかよ伝七! だいたい、こっちにはい組だっているんだぞ! てか兵太夫ーー! 酷いじゃないか、こっちは毎回徹夜仕事なんだぞ!」 「ごめんごめん団蔵、つい、さー。でもまぁ、これでい組も大したことないってのが分かったよな、なあ左吉ー、あはははは」 「くっそーー! お前らやることがえげつないんだよ!」 「私がどれだけ計算し直したと思ってるのよ! 死ね、作法委員! 全員の髷落として出家させてやる! 委員長の髪は外出用の付け髪にしてやる!」 「では他の髪は縄にするか髪屋に売ってしまいましょうか、先輩。身を持って予算の足しにすればいいんです」 「いいこと言うわね、三木。じゃあとりあえず厄介な穴掘り小僧から叩くわよ! あの髪も高く売れるわ、きっと!」 「良い機会だ、本気で殺してやる、仙蔵! よくもうちの委員で遊んでくれたな!」 「ほほう、ヘタレの会計委員にどこまで出来るのか、見物だな。……お前達! ヘタレ委員会なんぞに負けるなよ! 藤内、お前もいい加減作法の誇りを持ってぶっ潰してやれ! 委員長命令だ!」 「ていうか補習の定期券持ってるは組にはなにも言われたくないー!」 「実戦経験が足りなくていつも足手まといのい組にはなにも言われたくないー!」 「こら、お前らそれ不毛だっていい加減気づけよ! あ、藤内、逃げんなよ!」 「だから僕はやめたほうがいいって……ちょ、先輩、なんですか!? 僕の髪をどうするんですか!? ちょっとーー!」 「あー、お腹いっぱいだー。…………ん?」 ぽんぽんと膨らんだお腹を撫でながら庭を歩いていたタカ丸は、ふと会計委員室の前で凄まじい攻防を繰り広げている集団を見つけて、足を止める。 「あれ? なんかどっかで見たような……?」 ふむ、と首を傾げてから、ぽん、と手を叩く。 「そうだそうだ、さっき食堂で見たの、作法委員だったっけ。大変だなあ、会計委員も作法委員も」 僕は火薬委員でよかったー、ともう一度言いながら、タカ丸はそのまま何事もなかったかのように部屋に戻って行った。 やがて教師陣と委員長委員会に引き剥がされ、全員が保健委員会にしこたま絞られるまで、あと数刻。 終 |