| 『不破雷蔵』 | |
「さあ、放課後から明日まで、時間はたっぷりあるわ。使えるものはなんでも使いなさい、可愛い私の生徒達」 『はいっ!』 一斉の返事と共に、女子生徒達は瞬く間に教室から飛び出して行く。私も勢い良く席を立って、教室を飛び出した。正直に言うと、私はこの手の実習にまったく自信がない。お願いすることは出来ても、ねだるなんて出来ないから。 だから、先生が言ったとおりに『もらってくれそうな相手』を早く探して、とにかく頼み込もうと思っていた。 すぐに思い浮かんだのは、同年の雷蔵。雷蔵は優しいし、私とも比較的親しくしてくれている。お願いすればたぶん……高い確率で頷いてくれると思う。 でも、きっとみんな考えることは同じだ。善法寺先輩もそうだけど、雷蔵はたぶん断ることをしないから、一番初めに見つけた人だけが渡せるはず。 放課後になると、委員会がある生徒はその活動場所へ、そうでない生徒は思い思いの場所で過ごす。今日図書委員の活動があったかどうかは記憶していない。とにかく、まずは図書室に行こうと足を急がせる。 図書室に向かう途中でも、さっそく目当ての男子を見つけて頼み込んでいる女子生徒がちらほら見える。男子は男子で、戸惑っていたり喜んでいたり、逆にものすごく不審がっていたり怯えていたりする。 いつもがいつもだから仕方ないだろうけど、雷蔵に不審がられたら少し落ち込むなぁと思いながら、私は図書室にたどり着く。一度呼吸を落ち着けて、それからそっと中に入る。いつもは静かなのに、今日は委員達がばたばたと本を山盛り抱えて行き来している。けれど雷蔵の姿は見当たらない。ちょうど良く目の前に久作がいたので、こっそりとその肩を叩いた。 「ごめん、久作」 「ん? ああ、先輩。なにか御用ですか?」 「委員会中にごめんね。雷蔵、来てない?」 「不破先輩でしたら、今は松千代先生のところですよ。その後、何人かから貸し出し期間が超過した本を回収してから、ここに戻ってこられるはずですが」 「そっか……ありがとう」 「なにかお伝えすることがあれば、お聞きしましょうか?」 「ん……」 どうしようか、と一瞬迷う。図書室で待っていても、たぶんその間に誰かが雷蔵を見つけるだろう。なら伝言してもらっても同じだろうし、そもそも委員会中には邪魔したくない。 「……ううん、いいや。ごめんね、ありがとう」 「いえ、……あ、先輩それとですね、実はこれから、」 「あ、先輩ダメですよー、部外者禁止なんすよー」 久作がなにかを言いかけた時、ととと、と軽い足音と共にきり丸が私に駆けて来る。 「なに?」 きり丸と久作に交互に視線を向けると、二人は顔を見合わせて、そして久作が言葉を続けた。 「これから、図書室の整理なんです。申し訳ないんですけど、委員以外は立ち入り禁止で……」 言われて顔を上げると、奥からじいっと私を見つめる図書委員長の姿があった。慌てて、うんうんと頷く。 「そっか、ごめんね」 小声で礼を言って、私は足早に図書室を出る。なぜか私の後ろについてきたきり丸は、私と一緒に図書室を出て、その戸に一枚の紙を貼った。 『図書室整理中にて、関係者以外立ち入り禁止』 「それじゃ、先輩、また整理中じゃないときに来てください」 「うん、邪魔してごめんね」 にっと微笑むきり丸に私もつられるように微笑んで、それから図書室に背を向けた。 ……雷蔵。松千代先生のところだと言っていたけれど、それは職員室でいいのだろうか。それとも別のところだろうか。分からないままに、とにかく走り出す。雷蔵が図書室に帰ってくるまでに見つけないと。 廊下を渡っているとき、菓子袋を持った男子生徒達を何人か見かけた。みんな行動が早い。私も本当に急がなくちゃと、だんだん焦り始める。図書室から職員室までの最短の道順を頭に描いて、それに沿って走り続ける。もうすぐ職員室だというところまで近づいてきたとき、いきなり耳に「不破先輩!」という声が飛び込んできて、反射的に聞こえてきた庭のほうへと足を向けた。 すぐに、視界に雷蔵の姿が映った。私は雷蔵に駆け寄ろうとして、けれど雷蔵の近くにいる人影に気づいて、即座にすぐ傍の木の影に隠れる。 「……ん? なに?」 足を止めて振り向く雷蔵に、一つ年下のくのたまの後輩が駆け寄って行く。もちろんその手には、私も持っている菓子袋が握られている。 ああ、急いできたつもりだったんだけど、遅かった。 私は身体から力が抜けるのを感じながら、それでも気配を殺して雷蔵と後輩の様子を窺った。もしかしたら……万に一つの可能性だけど、雷蔵があの子を断ってくれるかもしれない……という、薄情な期待があったからだ。 「不破先輩、あの……これ、もらってください!」 「……え?」 きょとんとする雷蔵に、後輩は菓子袋を差し出したまま、もう片方の手で拳をつくってぐっと握る。気合を入れるように。 「これ、くの一教室の実習なんです! あ、毒とか入ってません、普通のお菓子です! これを男子生徒に渡すのが実習で……よかったら、もらってください!」 早口で説明する後輩に、雷蔵はしばらく考える顔つきになる。やがて、じっと後輩が差し出すそれに視線を向ける。 「それ、みんな持ってるの?」 「え? ……あ、はい。四年生以上の女子は今日調理実習で作ったんです。三学年合同の中間試験で、これをお渡ししてなにかお礼にもらってくるっていうのが課題で……それで、あの、不破先輩……」 じっ、と雷蔵に視線で訴える後輩に、雷蔵はちょっと困った顔をした。 「それって、二人以上からもらってもいいの?」 「い、いえ。一人だけ、なんですけど……」 後輩の言葉に、雷蔵は苦笑する。 「ごめんね。僕、さっき違う子からもらっちゃったんだ」 「やっぱり! お邪魔しました、すみません!」 不破先輩、絶対競争率高いと思ったんだーー! と言いながら、慌てて後輩は去っていく。 そうだね、と私も頷く。遅かったと反省したけれど、どうも二番目でもなかったみたいだ。 雷蔵は去っていく後輩を見送ってから、さっきみたいになにかを考えるような顔で歩き出す。 私も雷蔵の姿が見えなくなってから、ゆっくりと木の影から出た。じっと、自分の作った菓子を見る。 料理は不得意じゃないけれど、さほど得意でもない。正直に言えば、とても美味しいという自信はない。 ……雷蔵に渡せなくて、よかったのかもしれない。もし渡すことが出来ても、喜んでくれたかどうか分からないから。 落ち込んでばかりもいられない。早く雷蔵の他に渡せる人を探さないと。 とにかく、比較的仲の良い同年の男子に頼んでみよう。ざっと誰がどこにいるか考えて、一番近い場所に向けて走り出す。 走りながら、ふと思う。 ──雷蔵は、誰にもらって、それからなにをあげたんだろう。 いいな、と。知らないその誰かを、羨ましく思った。 学園内をかなり走り回ったけど、結局私は日が落ちるまでに誰にも渡すことが出来なかった。 ようやく見つけた兵助と八左ヱ門はもうもらっていたし、三郎に至ってはまったく見つからない。 他にも何人か、知り合いの後輩と先輩を当たったけれど、みんなもう誰かにもらった後だった。 さすがに少し疲れて、私は人気のない縁側に座り込む。時間も遅いからか、同じように男子を探して走り回っていた女子生徒達も、今はもうぜんぜん見当たらなかった。 女子生徒よりも、男子生徒のほうが人数が多い。だから数の上ではまだまだ渡せる相手がいるはずだけど、私には話したこともない相手に頼めるほどの度胸はない。もともとこの手の実習が苦手だという自覚があるせいで、ますますその自信はなくなっていた。 「……食べちゃおうかな」 手の中の菓子袋に視線を向ける。見た目は綺麗だし、中身も自分で作ったのだからそこそこの味だと分かっている。本当なら日付が変更されるギリギリまで必死にならなければいけないんだろうけど、私はもう諦めの感情が強かった。 部屋に戻ろう。これは同室の友達と食べてしまえばいい、と投げやり気味に思う。実習放棄は点数をかなり引かれるから補習だらけになってしまうだろうけど、そのことよりもずっと、今手の中にあるものを誰かに渡さなければいけないという、その緊張感のほうが嫌だった。 「帰ろう」 ぽつりと自分の声が響く。私は菓子袋を握り直す。それからゆっくり立ち上がろうとして……誰かの気配が近づいてくるのを感じた。 「!」 顔を上げる。私が座っている縁側の先、庭の端に、一人の男子生徒がいた。私の姿を見つけて、慌てた様子で駆けて来る。 「……雷蔵?」 その姿に私が驚いている間に、雷蔵は私の目の前までやってきた。かなり走ってきたのか、呼吸が乱れている。 「どうしたの、雷蔵」 思わず顔を見上げると、雷蔵は一度乱れた息を整えるために深呼吸してから、ほっとした顔になった。 「よかった。見つからなかったからどうしようかと思った。こんなところにいたんだね」 「私のこと、探してたの?」 驚いて問いかけると、雷蔵は「うん」と微笑んだ。私の隣に腰掛けながら、 「久作が言ってたんだ。放課後終わってすぐに、が僕を探してたって。委員会終わってからしか探せなくて、遅くなっちゃったけど」 「──あ」 思い当たって、間の抜けた声が出た。そうだ、たぶん久作は親切心で言ってくれたんだろう。でも。 「遅くなってごめん。……なにか僕に用だったんだろう?」 「…………その」 胸が痛む。確かに用事はあったけど、今はもう意味がないから、どう答えようかと私は迷った。こんな誰もいないところまで来てくれるくらいだから、たぶんすごく探してくれたんだろう。 「ごめん、雷蔵」 謝ると、きょとんとした瞳を返された。 「ごめんなさい。……もういいの。探してくれたのに、ごめんね」 「そっか。いいんだ、急な用事だったりしたらどうしようかと思ってただけだから」 雷蔵は、たぶん私が気にしないようにだろう、優しく微笑んでくれる。その笑顔に、また胸が痛む。本当なら、用事があるんだと私も言いたいのに。もう雷蔵にはあげられないから。 申し訳なさで雷蔵の顔がまともにみられなくて、私は俯く。つい手に包んでいた菓子袋を握り締めていると、ふと雷蔵が覗き込んできた。 「……ねぇ、それ──」 じっと、菓子袋を見つめる雷蔵の視線に、私は「うん」と頷く。雷蔵はもう実習内容を知っているから。怪訝そうな雷蔵の顔に、私は苦笑してみせる。 「……誰にも渡せなかったの」 「なんで。なら、渡せそうなのに」 「そんなことないよ。もらってくれそうな人は、みんなもう誰かにもらってるか、見つからなかったから。……私、出遅れちゃったみたい」 そう答えると、雷蔵はとても複雑そうな顔をした。どうしてだろう。 「……まだ間に合うと思うよ」 「ん……いいの。私他の実習の成績は悪くないし、これが駄目でもなんとか進級は出来るはずだから。……だから」 言葉が詰まる。言い訳みたいな言葉を繰り返す自分が嫌になった。 ため息を吐く。雷蔵が、じっと顔を覗き込んでくれる。たぶん、心配してくれてるんだろう。 「愚痴ってごめんね。ほんとに大丈夫だから」 「……本当に、誰もいないの?」 「うん、みんな駄目だった。委員会の先輩と後輩も聞いたけど駄目で……それに私、話したこともない男子に渡すことは出来ないし──」 「」 私の言葉を遮って、雷蔵が名を呼ぶ。その声音がいつもよりちょっと固く聞こえて、私はそれに気圧されて口を閉じた。 「じゃあ……、それ、僕にくれない?」 雷蔵が、意を決したように言う。私は一瞬驚いて、それからほっと心が軽くなった。 私の手元にあるよりは、せめて雷蔵にもらってもらうほうが、確かに慰めになる。実習の点数にならなくても、そうしてくれたら嬉しい。 「……もらってくれるの?」 「うん、……欲しい」 「美味しくないかもしれないけど」 「僕は、のが欲しい」 「……ありがとう」 雷蔵は優しいね。握っていたそれを差し出すと、雷蔵はそっと受け取ってくれる。 雷蔵は、何も言わずにじっと私が渡した菓子袋に視線を落としてる。それが急に気恥ずかしくなる。 「ごめんね。二つもいらないよね。誰かもらってない人がいたら、あげてくれて構わないから」 ついつい沈黙が嫌でそう口早に話してしまうと、雷蔵は「え?」と顔を上げた。 「二つ?」 「だって、雷蔵はもう誰かにもらったでしょう? だから……」 言いながら、まさか三つ目なのかなと不安に思った。けれど雷蔵は、小さく首を横に振る。 「僕は、まだ誰からももらってないよ」 …………え? 混乱する。だって、雷蔵はあのとき『さっき違う子からもらった』って、確かに言ってたのに。なのに。 「……ほんとに?」 「うん、本当に誰からももらってない。だから、僕でよかったら、実習の相手にして」 雷蔵の、ちょっと照れたみたいな微笑みに、どくんと鼓動が高鳴った。顔に血が集まっていくのが分かる。 「あ、でもね雷蔵、これ、お礼になにかもらわないと駄目で」 「はい、これでよかったら」 すぐに差し出されたものを、私は反射的に受け取ってしまう。視線を落として、目を見開く。赤い塗りの、一目で高いものだと分かる女性用の櫛だったからだ。 「っ! こ、これ……」 「春祭りでね、くじを引いたら当たったんだ。でも僕は使わないし、よかったらもらって」 「く、くじ?」 「うん」 微笑む雷蔵の嘘に気づいて、私は今一度手元の櫛に目を下ろす。 これは老舗の櫛屋さんが若い女の人向けにと作った新製品で、女子生徒の中でも欲しい欲しいと評判になったものだ。安物ではないから手が届かなかったけれど、私もその存在は知っていた。 春祭りで手に入れられるものじゃない。だってこれが売り出されたのは、夏の初めだったのだから。 「き、気に入らないかな。じゃあ、なにか他に──」 「ううん、そんなことない、すごく嬉しい! ……でも、こんなに高いもの、いいの? もっと手軽なものでいいのに」 「いいんだ。僕が持っていても仕方ないから」 雷蔵の言葉に、それはそうだろうと思う。男の人が使うものじゃないから。 でも……それなら、雷蔵はどうしてこれを持ってるんだろう。気になるけど、そんなことは聞けないし。 「ありがとう……」 「うん。僕もが使ってくれたら嬉しい」 私にはもったいないくらいに綺麗な櫛。すごく嬉しいけれど、あまりに対価として釣り合っていない気がして戸惑ってしまう。 じっと櫛を見ていたら、その私の様子が分かったのか、それとも違う理由なのか、雷蔵は空気を察したように立ち上がる。 「じゃあ、僕は戻るね。……ありがとう、」 礼を言うのはこっちのほうだ。歩き出そうとする雷蔵に、私も慌てて立ち上がる。 「雷蔵、ほんとにありがとう。……ごめんね、心配してくれて」 「……違うよ、僕が欲しかっただけ」 なんでそんなに優しいの。言葉が詰まってなにも言えずにいると、雷蔵は「じゃあね」と微笑む。 その微笑みに、私は思わず腕を伸ばした。雷蔵の腕を掴んで、引き止めてしまう。 「……?」 振り向く雷蔵の顔は、きょとんとしている。優しい顔。雷蔵が優しいのは知っている。でも、だからこそ、私は不思議だった。 「雷蔵、いろんな子からもらって欲しいって頼まれたでしょう? どうして、今まで誰にももらわなかったの」 尋ねると、雷蔵は少し困った顔になったあと、曖昧に答えた。 「ん……。なんとなくね。みんなが言ってることが本当かどうか分からなかったし」 「そう……」 それ以上は追求出来ず、私は掴んでしまった雷蔵の手を離した。雷蔵は私を一瞬だけ見つめて、それから背を向けた。 長屋に戻って行く雷蔵。風に乗って僅かに聞こえてきた独り言。途切れ途切れでほとんど聞こえなかったけど。 「──僕だって、もらう相手とあげる相手は選びたいんだよ、」 自分の名前だけははっきりと耳に届いて、ただそれだけなのに、胸が軽く締め付けられた。 ※※※ 一人でこっそり食べようと思っていたのに、同室の三郎だけならともかく、なぜか兵助と八左ヱ門まで部屋に集まってきた。あれやこれや誰からもらったなにをやったと言い合っていたから、僕にも順番が回ってくるだろうなと思っていたけれど、案の定なんの気もない様子で「それで雷蔵、お前誰にもらったんだ」と八左ヱ門があっけらかんと聞いてきた。 「ん……」 三人は僕がのことが好きだと知っているから、言えば確実にからかわれる。口ごもると、兵助がもらってきたお菓子を食べながら、「いーよな雷蔵は」と言い出した。 「お前だったら、いろんな女子にもらってくれって頼まれただろ? このモテ男め」 「……いや、それはつまりチョロいってことだろ兵助」 「で、誰にもらったんだよ」 隣で適当に本を流し読みしながら、三郎が言う。ここで言いよどむとさらにからかわれるなと思って、仕方なしに答えた。 「……」 「なにぃぃぃぃぃぃぃ!?」 「ド本命じゃん、どんな手使ったんだよこの幸せもの! ムカツクから俺が食べてやる!」 「八左ヱ門、触ったら殴るよ」 「雷蔵がそんな暴言を! 尋常じゃねーよ、これマジだ!」 伸ばされた手を払いのけると、びくうっと八左ヱ門が身を引く。 「でもすごいな、。一番初めに雷蔵のところに行ったのか」 感心したように兵助が言うと、うんうんと八左ヱ門も頷く。 「早いもん勝ちだもんなぁ。…………あれ、でも俺、にもらってないか聞かれたぞ」 「あ、そういえば俺もだ」 「………………」 「な、なんか雷蔵が黙ってて怖いから、これ以上の追求はやめておこうと思う、俺」 「お、俺も……」 単に見てただけなんだけど、二人は「なんだよー睨むなよこえーよー」「いいじゃないか、どうせからもらってるんだから」とぼそぼそ言い合いながらお菓子を食べている。器用だ。 「……どんな手使った、お前」 ぼそりと隣からの三郎の声。なんて答えようかと思案して、結局本当のところはよく分からなかったから、曖昧に返した。 「別に。に会ったら偶然まだ渡してないって言ったから、もらっただけ」 「ふうん。で、なにやったんだ」 「……櫛」 その一言で、ああ、と三郎は納得した顔になる。 の誕生日になにかあげようかと迷って迷って迷った末に決めたものだったけど、結局渡せなかったから。 「よかったじゃん、渡せて」 「……うん、まあね」 三郎はそれだけ言うと、また適当な読書に戻る。僕はなんとなく複雑な思いで、からもらった菓子袋に視線を落とす。 ほとんど、奪い取ったのと変わらない。 が本当は誰に渡したかったのかは知らないけれど。 僕にくれたことで後悔しないでいてくれたらいいな、と。 そう思った。 終 |