ホワイトデー企画潮江文次郎夢オマケの続き(?)




「ん……」

 目覚めたとき、最初に寒さを感じてびくりと震えた。次に身じろぎした瞬間、身体のあちこちに鈍い痛みが走る。

「起きたか」

 声をかけられて視線を上げると、すぐ隣で文次郎が顔を覗き込んできていた。

「……私、どのくらい寝てた?」
「少しだけだ。布団敷いてやろうとしてたとこだ」

 短時間だということにほっとして、そのとき身体を覆っているものに気づいてちょっと驚いた。文次郎の上衣だ。
 文次郎はもう上衣以外の身繕いを済ませていて、私の顔色を見るように髪をかき上げてくれる。剥き出しの肩口に私がつけた噛み跡を見て、ああ、と気を失う前のことを思い出した。

「ごめん。痛い?」
「……痛くねーよ」

 少し複雑そうな顔は、見慣れたいつもの文次郎のそれじゃなかった。
 情事後の男の気だるげな色香に、文次郎もこんな気配になるんだと意外に思いながら、ゆっくりと身体を起こす。

「後始末してくれたの」
「……まあな」

 身体に残る残滓が鈍い疲れだけなのを察して問うと、文次郎は嘆息混じりに答える。初めてじゃないことは分かっていたけど、ほんとは女の人に慣れてるのかもしれない。それも意外だ。

「てかお前、とっとと着ろ」
「……見なきゃいいのに」
「あほか、目に入るんだよ!」

 ……だから嫌なら見なきゃいいのに。
 ありがとう、と上衣を返して、自分の着物を探す。制服の装束は私の足元にきちんとたたんで置いてあって、これ文次郎がやったんだ、とそれにも驚いた。変なとこで真面目。
 見たくないらしいので文次郎に背を向けて着衣を済ませる。中着と袴と上衣。最後に髪紐を取り上げて、髪を纏めようとする。

「……
「なに?」

 呼ばれて髪を結い上げながら振り返ると、文次郎は慌てて目を逸らした。……もう裸じゃないのに。もしかして、着ているところを後ろから見てたんだろうか。嫌だって言ってたのに。

「……なに?」
「ん……いや、その」

 言いにくそうにしている文次郎に、私は髪を束ねてから目の前まで足を進めた。
 じっとその顔を見る。
 さっきまでこの男に抱かれていたことを思い出して、私は幸せだったと思う。
 でも、これで終わり。

「…………あのな」
「文次郎」

 文次郎が大体なにを考えているのかは分かっていた。だから目が覚めたときから諦めていた。

「……なんだ」

 視線を向ける文次郎に、私は自分の中を入れ替えた。
 演技しろ。どうか声が震えないように。
 言え。


「実習、手伝ってくれてありがとう」


 ぴたり、と文次郎の動きが止まった。私はゆっくり立ち上がって、そのまま部屋を出ようとする。戸に手をかけた瞬間、後ろから腕を掴まれた。

! おい待て!」
「……なに?」
「なにって……違うだろ!」
「なにが……?」

 そういうことにしたいんでしょう。
 私を抱いたことに理由が欲しいんでしょう。
 そんな顔してる。そんな顔しかしてない。

「大丈夫、誰にも言わないから。三禁だもんね、文次郎」
「……だから、違う。そうじゃない!」
「じゃあ、なに?」

 意図して冷ややかに視線を向けると、文次郎は言葉に詰まって顔をしかめた。ほら、そうやって頭の中でなにもまとまってないのに、なにか言おうとするから。
 あなたを困らせたいわけじゃない。一度きりでも私は嬉しい。
 だから……。

「女の一人くらい、なんでもないでしょう? 私もそうだから、嫌なら忘れて」

 だから、そんな困った顔、しないで。

「……実習、手伝ってくれてありがとう」

 もう一度言って、掴まれた文次郎の腕を無理矢理に振り解く。文次郎が息を呑んでまた私に手を伸ばそうとするのを素早く避けて、そのまま部屋を出て駆け出した。












 終