ホワイトデー企画久々知兵助夢オマケの続きの続き(?)




 月の光が明るくて、姿を隠すには不向きな夜だ。
 それが分かっていても、今は極力他人の気配を感じたくなかった。

 別に隠れたかったわけじゃない。けれど静かなところで気持ちの整理をつけなければ、に今までのように接することが出来ないと思っただけだった。
 覆い茂った木々の向こうに、ぽっかり浮かぶ月の光が木漏れ日のように落ちてくる。
 たぶんもう就寝時間も近いはずだ。同室の相手に鍛錬に行くとだけ伝えて部屋を出てから、夕食も摂らずにただ月を見上げている。学園の外れの、ただの木立の中で。





「兵助」

 後ろからの気配には少し前から気づいていた。それでも逃げることも隠れることもしなかったのは、単にどうすれば一番良いのか分からず迷っていたせいだ。すぐ後ろまで近づいてきて背に躊躇いがちに触れてくる身体は小さくて柔らかくて、ついさっき抱いたばかりだとは思えないほどに愛おしかった。

「兵助……」

 すすり泣くような声音で、は俺の名前を呼ぶ。振り向こうとして、止めた。俺はがなにを望んでいるのか分からないから。

「……どうしたの、
「ごめんなさい……」
「なんで謝るの」
「ひ、ひとりにしてって、言ったのに」

 ああ。去るときに言った言葉を気にしてるのか。
 は俺の肩に手を伸ばして、ぎゅっとしがみつくように触れる。

「兵助……。お願いだから、もう一度だけお話し、してもいい……?」

 その声は明らかに泣き声で、それにすごく罪悪感が浮かんだ。
 が悪いわけじゃないのに、きっとずっと気にして俺を探し回っていたんだろう。

「顔、見たくなかったらこのままでいいから。お願い、ここにいて……」
「うん」

 がなにを望んでいても、それでが楽になるならと、俺は自分が今まで以上に傷つくことを覚悟した。
 それよりも、を傷つけるほうがずっと嫌だから。
 は幾度か息を吐いて落ち着かせるようにしてから、それでもやっぱり泣き声で言う。

「兵助、好きだって言ってくれたよね? わたしのこと、好きだって」
「……うん、好きだよ」

 肩に触れるの手が小さく震えているのを感じて、俺はゆっくり後ろを振り向いた。声の通りに泣いていたは、慌てて俺から視線を逸らそうとして、下を向いてしまう。

「顔が見たくないわけじゃないよ」

 指を伸ばしてその涙を拭うと、はおずおずと顔を上げる。その濡れた黒い瞳に、俺が映る。

「ごめん……なさい」
「……どうしてが謝るの」
「だっ、て」

 戸惑うように少し細めたの瞳から、押し出された涙がまた零れて落ちていく。の頬に触れている俺の指を伝って、下に。

「怒る……? 私ね、兵助がどうして私のこと嫌になっちゃったのか、分からないの」
「……嫌?」

 思いも寄らぬ言葉に、驚いた。なんで俺がのことを嫌にならなくちゃならないんだろう。
 単に俺がを好きで、それで勘違いして、を傷つけているだけなのに。

「好きって、言ってくれたのに、どうしていなくなっちゃったのか分からないの」
「いなくなるって」
「だって、さっき、いなくなっちゃ……」

 堪えきれぬようにまた俯いて、は言葉を詰まらせた。その肩を引き寄せると、も震える身体を俺に寄せる。

が悪いわけじゃないんだ」
「う、嘘」
「嘘じゃないよ。が嫌なわけじゃない」

 言った直後、

「それなら、どうしていなくなっちゃったの!」

 叩きつけられた声音に、息を呑んだ。勢い良く顔を上げたが、悲しそうに俺を見てる。頬を伝って零れ落ちる涙が月の光を反射して瞬いて、地面に吸い込まれて消えていく。

「言ってくれないと、直せないの。兵助がどうして嫌になったのか分からないと、私、きっとまたしちゃうから」

 だからお願い、とは俺の瞳を覗き込む。

「教えて。兵助は私のどこが嫌? 直せるところなら頑張って直すから。もう絶対しないから、教えて」
「……違う、
「優しいこと言って、誤魔化さないで。お願いだからちゃんと言って。…………私のことを、嫌いにならないで」





 嫌いになる方法なんて、きっとない。
 俺はがこんなにも好きなのに、ずっとずっと傷つけてる。不安ばっかり押しつけている。
 笑っていて欲しいのに。誰よりも好きなのに、なんで。


 が好きだよともう一度伝えようとしたとき、が泣きながらゆっくりと笑う。


「……兵助、私はね」


 は悲しそうに、傷ついた顔で、それでもどこか幸せそうに、ぽつりと囁くように声音を漏らした。




















「兵助が大好きだよ」






















 終