ホワイトデー企画鉢屋三郎夢オマケ




※ホワイトデー企画鉢屋三郎夢のラストから繋がるオマケです。未読の方はそちらからどうぞ。








「あ、!」

 三郎の前から逃げるように去って、女子寮に帰る道を急いでいるとき、突然に後ろから腕を掴まれた。慌てて振り向いた先には、保健委員の仕事中なのか、補充用のたくさんの落とし紙を抱えた伊作先輩の姿がある。
「……ぜ、善法寺先輩」
「久しぶりだね、元気?」
「え、あの」
 にこやかに微笑む先輩の顔にちょっと焦って、ぶんぶんと掴まれたままの腕を振る。伊作先輩は、あ、と気づいてすぐに手を離してくれた。
「ごめんね、つい」
「い、いえ。……あの、どうしたんですか?」
「うん、あのね。、鉢屋にもう会ったかな?」

 ────っ!

 一瞬で、頭が熱に染まった。

「ななななななんでですか、なんでですかーーーーー!?」
「……よく分かんないけど会ったみたいだね、よかった。夕方くらいかな、鉢屋が君を探してたから」

 え?

 なにを言われたのか分からなかった。きょとんとする私に、伊作先輩はちょっと苦笑する。

「急いでたのか凄い勢いで『に会ってませんか!?』って聞かれてね。会ってないよって言ったのにどうしてか信用してくれなくて、何度も聞かれたんだ。でも、もう会えたならよかったよ」
 伊作先輩はぽんぽんと私の頭を撫でてから、「それじゃあね、鉢屋によろしく」とだけ言って、落とし紙の補充に向かって行った。



 三郎が、私を探してた?
 意味が分からない。私は確かにさっき三郎と会った。でも、……探してたなんて、そんな風に見えなかった、全然。

 全然、そんな風には──

 途端に身体が熱くなる。さっきのことを思い出して、鼓動が跳ね上がる。
 駄目だ。
 息を吐いて、落ち着こうと繰り返して。
 でもやっぱり落ち着けなくて。

「…………はあ」

 落ち着くことを諦めて。
 私はまた、女子寮に向かって歩き出した。










「はい、さん、どうぞ」

 教室に入るときに、私と同じく実習の報告をしに来たのだろう先輩とすれ違った。先輩に軽く一礼して、私は山本先生の元に足を進める。
 文机の上に実習報告書を広げている山本先生に手招きされて、その前に正座する。山本先生は筆で私の名前を書くと、用紙から顔を上げないまま「出来たかしら?」と尋ねた。
「……はい」
「相手の名前は?」
「五年の、鉢屋三郎です」
 告げた瞬間、山本先生の動きがぴたりと止まる。それから、ゆっくり、顔を上げる。
「鉢屋君……?」
「あ、はい……そうです」
「……疑ってるわけじゃないんだけど、ちゃんと自分からした?」
 じっと暴くように私を見る先生に、私はちょっと動揺する。それから、頷く。
「はい、しました」
 本当は最初は三郎からだったけど、ちゃんと自分からもしたし、実習は出来てると思うんだけど……と考えていると、山本先生が「そう」と軽く微笑んだ。
「ならいいのよ、ごめんなさいね。……じゃあ、合否結果は相手に確認を取ってからだから、三日くらいかかると思うけど──」
「あの、先生」
「ん? なにかしら?」
 小首を傾げる先生に、私は「その……」と先生の瞳を見上げる。
「さっきの、どういう意味なんでしょうか。……あの、三郎の」
「ああ」
 山本先生は苦笑して、それからちらりと外を見た。私がのろのろしていたからもう時間はかなり遅くて、あと半刻もしないうちに日付が変わりそうだった。
「そうね、もう時間だし言ってもいいかしら。……鉢屋君はね、最初から実習内容を知っていたのよ」

「──────え?」

 唖然とする私に、山本先生の言葉が続く。

「鉢屋君は委員長だから、昨日からそれを伝えてあったの」

 頭が、ガンガンする。でもそれがどうしてなのか、まだ理解が追いつかない。

「だから一応聞いてみたの。心配しなくても、彼も対象内だから大丈夫よ。でももし鉢屋君がなにか目論んだんだったら、叱らなきゃと思っただけなの」

 先生の言葉に、慌てて首を横に振った。

「いえ。三郎は、知らないって言ってました」
「ええ。ならいいのよ、気にしなくても」

 山本先生は私を落ち着かせるように微笑んでから、もういいわよ、と退室を促す。

「はい……ありがとうございました」

 私は先生に向かって頭を下げると、立ち上がって教室を出る。

 教室の戸を閉めた途端、ずきり、と頭に鈍い痛みが走った。



 ──三郎は、実習内容を知っていた?
 ──三郎は、私を探してた?



 どうして。


 その二つが繋がったら、ずっと悩んでいたことに答えが出そうで、でもそんなわけない、と考えることを拒絶する。
 鉢屋が急いでた、と伊作先輩の言葉が繰り返される。、と耳元で囁かれた三郎の声が、頭を巡って仕方ない。三郎の熱が、まだ離れない。
 分からない。分かりたくない。勘違いしたくない。

 だから。


「そんなの、あるわけない……」


 自分に言い聞かせるためにそれだけを口にして、私はのろのろと足を動かし始めた。

















 終