ホワイトデー企画久々知兵助夢オマケの続き(?)
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「、腰痛くない?」 「ん、大丈夫。……でも、これ早く拭かないと固まっちゃうね」 ようやく離れてから一番にしたことは、べたべたになった身体を拭くことだった。脱ぎ捨てた装束の中から手拭いと懐紙をありったけ取り出して、身体中に散った体液を拭い始める。 「お風呂入ったほうがいいかな……」 「風呂、まだ湧く時間じゃないしな。学園のどっかに温泉あっただろ。行こうか」 「っ!? 兵助と二人で!? 入るの!? 覗かれるの!?」 「え、いや、……嫌なら覗かないけど」 かあーーーっと顔を赤くするに、恥ずかしがるところが違うんじゃないかと思いつつ、俺までなんか恥ずかしくなる。今まで散々睦み合っていたんだし、そもそも今だってお互い全裸だ。と、ようやくそれに気づいたのか、はあわあわと俺に背を向ける。 「み、見ないで兵助!」 「……いや、無理だろ?」 「なんでそんな当たり前みたいに……!」 「当たり前だと思うけどな」 言った通りにの背をじっと見てから、ふと気づいてを後ろから引き寄せた。きゃー、とばたばたしながら俺に倒れ込むを、これもなんで今更と不思議に思いつつ、上からその顔を覗く。 「なななに、兵助」 「背中、拭いてもいいか?」 「……汚れてる?」 「いや、でも汗かいてるだろ」 言いながら手拭いでぐいっとの背を拭くと、はぞわぞわ震えて、またきゃーと声を上げる。 「兵助、くすぐったいから!」 「背中も弱いのか? ゆっくりするから」 「うああああ、兵助、無理だから! せめてもっと優しくしてください……!」 なんでその言葉をさっき睦んでるときに言わなかったんだろうと再三不思議に思いながら、言われた通りに優しく拭いた。行為中よりも真っ赤になった顔で、は思いっきり俯いてしまう。 それでもやっぱりすごく可愛くて、後ろから抱き締めて、朱に染まってる耳に口付けを落とす。びくんっとは大きく震えて、それからゆっくり力を抜いた。 ちょっとの間、そうしてただお互いの体温だけを感じていた。一度果てたから落ち着いてるけど、このままだとまた欲しくなるなとぼうっとしてたら、がぽつりと口を開く。 「……あの、兵助」 「なに?」 「…………さ、さっき」 「うん?」 「す、好きって」 聞こえたような……と続けて、はますます顔を赤くして俯いてしまう。抱き締めてる身体が強張ってるのを感じながら、むしろあれだけはっきり耳元で囁いて流されたら落ち込むなと思いながら、「うん」と頷いた。 「好きだよ、」 「………………っーーー!」 もう一度言うと、耐えきれないのかがじたばたし出したので、ちょっと笑って強く抱き締めた。 はなにも言わずに、ただ黙ってじたばたし続けていた。でも俺はそれでいいと思ったし、物足りないとも思わなかった。 即座に拒絶もせずに、はこうして触れることを許してくれている。だから、すぐに返事がもらえなくても構わなかった。俺は今本当に幸せだったし、望みがあるのだと分かれば、それだけでいいから。 ゆっくり離れると、がおそるおそると俺を振り向く。目が合った瞬間に慌ててまた背を向けられて、苦笑した。 あんまりしつこくするのも恥ずかしいだろうと俺からも背を向けて、身体を拭き終えて着衣を済ませた。情事の跡が残っていないことを確認していると、同じく着衣を済ませたがいつの間にか後ろに来て、俺の袖を引く。 「兵助」 「うん?」 「あの……やっぱり一緒に温泉行っていい?」 べたべたで気持ち悪い……、と零して、はようやく視線を合わせて笑ってくれた。照れたような顔が、すごく可愛い。 あー、くそ。 「うん……行こうか」 一緒にっていい言葉だよなと思いつつ、俺はに手を伸ばす。も俺のそれに重ねようと手を伸ばして、……そしてすぐに慌てたように引っ込めた。 「……? どうしたの」 「あ、ううんごめん……。私、先に報告に行かなきゃ」 「報告……ああ」 言ってる意味に気づいて、ちょっと苦い思いになった。罰ゲームのか。 「それが終わってからでいい?」 「いいけど……。誰も見届けてないのに、完遂したことになるのか?」 結局が今の今まで気にした様子がまったくなかったのは、本当に誰もいなかったからだろうから。そう問うと、は頷く。 「大丈夫。あとで先生が確認にくるから。あ……そうだ。お願いしてもいい? 明日たぶん、先生がちゃんと出来たか兵助に聞きに来るから」 「……先生……?」 思いも寄らぬ単語に、怪訝に思う。先生って……なんだ。 「先生まで参加してるのか? いくらなんでも、酷くないか」 「……? 酷いかな……、だって試験だし」 当たり前じゃない? と小首を傾げるの言葉に、俺は違和感に気づいて眉をひそめた。 今……なんて言った? 「……試験?」 「うん。色の試験。実習」 きょとんと見返してくるの言葉に、俺はなにを言われてるのか分からなかった。……違う。分かりたくなかったのかもしれない。 ──色の試験? 「なんだ、それ」 「え? ……あ、ご、ごめん言ってなかっ」 「俺とするのが試験? ……そうなのか?」 の肩を無意識に強く掴んで、顔を覗き込んでいた。は戸惑いの表情で俺を見てから、怯えたように一つ頷く。 「……そ、う。色の試験。でも兵助、私──」 なにか続けようとしたの口元に、手のひらを押しつけて遮った。 は驚いたように目を見開いて、そしてやっぱり戸惑った瞳で俺を見る。 それまでずっと俺は幸せだと、満ち足りていると思っていたのが、ゆるりと霞む。 そうか。 勘違いしたのは俺か。 いや、勘違いでもないのだろう。口付けする罰ゲームだろうが寝る実習だろうが、が俺を受け入れてくれたのは事実だ。選んで俺にしてくれたなら、それはそれですごく嬉しい。それにどちらにしても、結局俺の片恋であることもなにも変わらない。 でも俺は、 ──も望んで、俺に抱かれてくれたんだと思っていた。 抵抗が一つもなかったのは。痛みがあるのに必死に受け入れてくれたのは。無体としか思えないことを許してくれたのは。 それはほんの僅かでも、俺に対する思慕か、その欠片があるからだろうと、そう自惚れた。だから今はそれだけでもいいと思った。いつかもしかしたら想い合えるかもしれないと思えたから、だからすごく嬉しかった。 でも、違ったのか。 「……兵助……?」 ゆっくりとの口を塞いでいた手を離すと、は戸惑いが過ぎて泣きそうな顔で俺を見る。これももしかして色の演技なのだろうかと、俺はありもしないことを思う。のことは昔から知ってる。俺はずっとだけ見てた。だからこれは確かに素のままのだと、そう分かっているけれど。 「ごめん」 「……え?」 「俺、自惚れてた」 「兵助……?」 「先生が確認に来たら、ちゃんと伝えるから」 「な、なに? どうしたの?」 「なにかあったら責任も取るから、言ってくれ。がそれを望むならだけど」 「ねえ、へいす──」 「だから今は一人にしてくれるか」 俺の様子を見ようとするを押し戻して立ち上がる。慌てて俺の腕を掴んで引き止めるを、たぶん無感情の瞳で見下ろした。 「兵助……どうしたの? なんで? 怒ってるの?」 「……怒ってない」 「でも」 「俺さ、」 少し強い口調で名を呼ぶと、は身体の動きを止めた。俺の挙動のせいだろう、その泣きそうな瞳に、罪悪感が浮かぶ。ごめんな、上手く隠せなくて。ほんとはが気にすることなんてないのにな。 「のことが好きなんだ」 笑えていればいいけど、たぶん無理だろう。は今こうしているときも、やっぱり全部可愛い。そう思うのは変わらない。 俺はがすごく好きだ。 「本当に好きだから。それは嘘じゃないから」 だから、どうか。 「それだけでいいから忘れないでくれ」 腕を振り払われたのがなぜなのか、私には全然分からなかった。ごめんと謝られた意味も、最後に噛み付くように口付けられた意味も、兵助が去って行った意味も。 兵助は私を好きだと言ってくれた。 すごくすごく嬉しかった。 好きだと、伝えて。兵助も好きだと返してくれたから。 私と兵助は、これで恋仲になれたんだと思っていた。 なのにどうして兵助は今、私の隣にいてくれないんだろう。 好きだと言ってくれたのに。笑ってくれたのに。抱いてくれたのに。優しくしてくれたのに。 愛してくれてるんだと思っていたのに。 「兵助……?」 私はなにかいけないことを言った? 嫌なことをしちゃった? どうして兵助は私といてくれないの? 悲しくて、涙が出てきて、震える手で兵助の去った戸を開く。 そこには誰もいなくて、兵助の姿も気配もなくて、どうしてだろうと今一度思う。 さっきまでは、あんなに近くにいてくれたのに。 さっき、までは。 またまたどうしようもないつづき。 |